ラインケアの基本 ~メンタルヘルスケアで重要な理由とメリット~

上司と部下の写真

ラインケアとは、管理監督者が部下のストレス要因に気がつき、解決を支援するメンタルヘルス対策の一種です。

厚生労働省の調査によると、労働者のうち約70%が上司や同僚へストレス要因について相談したことがあると答えています。つまり適切なラインケアを実施することが、企業のメンタルヘルス対策を強化し、不調者を生み出さない有効な手段と考えられます。

そこで今回は、ラインケアの重要性やメリットについて解説します。

ラインケアとは

ラインケアとは、管理監督者が日常的にコミュニケーションを持つ自らの部下の異変を察知し、相談や支援の対応を行うことです。ラインケアの「ライン」とは、組織内において管理監督者から一般社員に続くライン上の組織形態が語源と言われています。

なお、メンタルヘルス領域においての管理監督者とは、部門の課長や部長など、実際の業務で指揮命令を行う人物を指します。日常的に部下の言動を目にし、指導や管理を行う立場であり、従業員にとって最も身近な上司にあたります。

メンタルヘルスにおけるラインケアの重要性

メンタルヘルス対策の一次予防において、ラインケアは重要な役割を持ちます。数名程度の企業であれば一人ひとりと無理なくコミュニケーションが取れるため、人事労務担当者も従業員のちょっとした変化にも気づきやすい環境と言えるでしょう。

しかし在籍人数が増えるほどに、一人ひとりと細やかなコミュニケーションが難しくなります。その結果、従業員がメンタルヘルス不調に陥る予兆を察知できず、状態を悪化させるリスクが高まるのです。

メンタルヘルス対策は、一次予防の徹底が原則ですが、それをすり抜けてしまった従業員に対しては早期に適切な二次予防を施さなければなりません。そのため、各々の従業員の近しい存在である上司によるラインケアが非常に有効であると考えられています。

ラインケアは厚生労働省が定める「4つのケア」のひとつ

厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にて、メンタルヘルス対策を「4つのケア」で継続的に推進していくことが重要であると公表しています。ラインケアはこの4つのケアのうちのひとつです。

4つのケアは、以下の内容で構成されています。

1. セルフケア
従業員各々がメンタルヘルスについて学んだり、自分のストレス要因に気づき対処したりする

2. ラインケア
管理監督者が部下の異変に気づいたり本人から相談を受けたりして、ストレス要因の改善をサポートする

3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
人事労務担当者をはじめとし、産業医や衛生管理者、保健師などが中心となり、セルフケアやラインケアのサポート、メンタルヘルス教育を実施する

4. 事業場外資源によるケア
事業場外の専門家や専門機関のメンタルヘルスケアサービスを活用する

上記4つのケアを円滑かつ有効に実施するために、会社側は管理監督者や産業保健スタッフへ適切な情報提供を行う必要があります。

ラインケアで管理監督者に求められる部下への対応

ラインケアでは、管理監督者が自らの役割を認識し、日頃から意識を持っておくことが重要です。管理監督者に求められる部下への対応について、主な4つのポイントを紹介します。

いち早く部下の異変に気がつく

ラインケアにおいて管理監督者は、部下のいつもとは違う言動にいち早く気づく必要があります。「いつもの部下であればAという選択をするはずなのに、Bを選ぶとは”部下らしくない”」という感覚を持てるかが重要です。たとえば、以下のような状況には疑問を持つべきでしょう。

・朝は部署内の全員に自分から挨拶していたのに、最近はその姿が見られなくなった
・遅刻とは無縁だったのに突然遅刻するようになった
・欠勤したことのない部下が出社しないため連絡したところ、今日は休みますと事後報告を受けた
・今まででは考えられないようなミスを繰り返す
・受け答えに覇気がなくなった
・身なりに清潔感がなくなった

本来の部下とはかけ離れた言動が見られた場合、部下からの心から発せられているSOSのサインかもしれません。部下の異変に気づくためにも、日頃から密なコミュニケーションが求められます。

部下が悩みや不安を相談しやすい雰囲気づくり

管理監督者は、日頃から部下が相談しやすい職場環境を整えておく必要があります。自ら悩みや不安を躊躇せずに相談できる管理監督者と部下の関係性構築が、ラインケアでは重要です。

相談者の部下が抱えるメンタルヘルス課題の早期発見、対処を実現できるだけでなく、チーム内の人間関係の把握にも役立ちます。

ラインケアで部下の相談を受ける際には、管理監督者は傾聴の姿勢を保つようにします。部下の話すことを否定せず受け止め、部下の立場で物事を捉えられる管理監督者の姿が見られれば、双方の信頼関係はより強固なものに育まれていくでしょう。

そして部下の相談内容に応じて必要な情報を提供し、相談窓口の案内や医療機関の受診を促すようにします。

メンタルヘルス不調による休業からの職場復帰支援

メンタルヘルス不調により休業していた部下に対しては、心情に寄り添ったきめ細やかなサポートが必要です。

部下は休業していたことに罪悪感を持っているかもしれません。そして、「本当に前のように仕事ができるようになるだろうか」「また体調を崩してしまうのではないか」とさまざまな不安と恐怖を抱えながら復職を迎えます。

そのため管理監督者は、復帰早々休業前のパフォーマンスを期待することは避けるべきでしょう。部下に「上司は自分の気持ちや立場を理解してくれている」と感じてもらえるようなサポートができれば、部下の不安や恐怖、緊張感を軽減できるはずです。

部下の個人情報保護への配慮

ラインケアを行う上で、管理監督者は部下の個人情報保護に配慮する必要があります。部下の健康情報の取り扱いは、あらかじめ衛生委員会で定めたルールに則らなければなりません。

また、管理監督者が部下から知り得た相談内容などの情報は、本人の同意を得ることなく活用したり外部に漏らしたりすることは認められません。正当な個人情報の取り扱いが、部下との信頼関係の構築に影響すると心得ましょう。

ラインケアを推進する企業のメリット

女性が笑っている写真

管理監督者が主体となり実施するラインケアですが、推進することで企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。主な3つのポイントを紹介します。

従業員の良好なメンタルヘルスを実現

ラインケアの実施は、従業員の良好なメンタルヘルスを維持し、健全な企業経営を実現します。

ラインケアが正常に機能すれば、管理監督者を通じて課題に応じた適切な対処方法を伝えられるため、従業員のメンタルヘルス課題解消に大きな前進が期待できます。

従業員がひとりきりでストレスや不安に苛まれ続けることを回避できるようになるので、必然的に良好なメンタルヘルス状態を長く保てるようになるでしょう。

企業に課された安全配慮義務の遵守につながる

企業には労働契約法により安全配慮義務が課されています。ラインケアの推進は、法令遵守につながる取り組みです。
万が一、従業員が業務や職場環境の影響を受けてメンタルヘルス不調に陥った場合は、法令違反を指摘されるリスクも考えられます。

安全配慮義務の遵守には、あらゆる角度から取り組みを行う必要がありますが、ラインケアはその中でも従業員へダイレクトにアプローチする手法です。

企業の健康経営の促進

ラインケアの実施は、企業の健康経営の促進に直結します。従業員の業務効率や成果は、各々のメンタルヘルス状態に大きく影響を受けるためです。

ストレスや悩みを抱えネガティブなメンタルヘルス状態が続けば、本人が意図にかかわらずパフォーマンスに影響をおよぼすことは避けられません。
従業員が目の前の業務にポジティブに取り組める状態こそが、健康経営の実現には欠かせない要素です。

適切なラインケアの実施のために企業が行うべきこと

ラインケアの実施にあたっては、管理監督者の対応に依存するだけでは企業の責任を果たしきれません。企業として必要な支援を行い、適切なラインケアの実施を目指しましょう。

管理監督者へのラインケア研修の実施

管理監督者に対して、ラインケア研修を実施しましょう。

ラインケアはただ部下から話を聞き出せば良いというものではなく、部下が話をしたくなるような関係性の構築や日頃の職場環境整備、傾聴のスキルなどが必要です。
管理監督者自身がメンタルヘルスへ正しい認識を持っていなければ、部下をかえって追い詰めるリスクもあり、適切に導くこともできません。

そのため企業は、メンタルヘルスの基礎知識や部下とのコミュニケーション方法について情報提供や教育を実施し、管理監督者のラインケアの実行を支援するようにしましょう。

産業医と連携しラインケアの取り組みを最適化

ラインケアの実施では産業医と連携し、取り組み方法の最適化を常に意識しましょう。

ラインケアのアプローチ方法は唯一無二の方法はなく、職場環境や部下の特性に合わせて柔軟な対応が求められます。また、正しい手法でラインケアを行わなければ、部下のメンタルヘルスに逆効果となる恐れもあります。そのため、身近にいる専門家の知識を借りない手はありません。

また管理監督者には、部下の状況に応じて産業医面談を進める手段もあることを伝えておきましょう。ただし部下が躊躇する場合には、管理監督者が代理という形で産業医へ相談する方法もあります。この場合には部下本人の了解を得た後に行いましょう。

管理監督者の労働環境についても配慮

ラインケアを適切に行うためにも、管理監督者の労働環境に配慮しましょう。

管理監督者はチームを束ねる長でありますが、だからと言って過度な負担を与えることは避けなければなりません。主体者である管理監督者自身のメンタルヘルスに異常が発生すれば、部下に適切な支援ができない可能性もあります。

管理監督者自身のためにも直下の部下のためにも、企業側は管理監督者に過度な業務量やストレスを与えないよう管理を行うようにしましょう。

効果的なラインケアを実現するためには日頃の職場風土の醸成が大切

ラインケアは企業全体のメンタルヘルス対策として、非常に有効な取り組みです。ただし上司と部下の良好な関係性があってこそ成立するものであるため、付け焼き刃のやり方では通用しません。

そのため管理監督者は、日頃から部下が心地良く仕事に集中できる職場環境を整え、何かあったときには全力でサポートできる職場風土を醸成する必要があります。

経営層や人事労務担当者はこれらを現実化するために、管理監督者を中心に全社的なメンタルヘルス教育を定期的かつ継続的に実施するようにしましょう。