職場のメンタルヘルス対策とは?人事が押さえておきたいポイントを解説

2015年のストレスチェックの義務化以来、職場でのメンタルヘルス対策は注目度の高い企業課題となっています。「働き方改革」「ダイバーシティ」「在宅勤務(リモートワーク)」などの言葉に代表されるように、多様な働き方が求められる現代では、人事が従業員のメンタルヘルス不調を防ぐために介入する(メンタルヘルスケア)ことは企業にとっても大きな損失や業績悪化を防ぐリスク対策であり、生産性を上げるための重要課題のひとつなのです。そこで本記事では、メンタルヘルス対策の基本知識や企業に及ぼす影響、メンタルヘルス対策に有効なケアや対策のフェーズなどについて解説します。

企業におけるメンタルヘルス対策とは?

メンタルヘルス対策はなぜ今企業に求められているのでしょうか。まずはメンタルヘルス対策の概要について確認していきます。

メンタルヘルスとは「心の健康」

メンタルヘルスとは「心の健康」のことです。メンタルヘルスは、環境に影響されやすい特徴があり、職場での疲労や人間関係といったストレスの蓄積で悪化することがあります。そのため、企業は従業員のメンタルヘルスを良好な状態に維持するためのケアが必要です。

企業のメンタルヘルス対策の現状

厚生労働省はメンタルヘルス対策として、令和4年までに「メンタルヘルス対策に取り組む事業場を80%以上にする」と発表しています。厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると平成30年時点では、メンタルヘルス対策に実際に取り組む事業場の割合は 「59.2%」でした。

また、300人以上が勤務する大きな事業場では対策が進んでいるものの、それ以下の事業所規模ではまだまだ対策が進んでいないのが実情です。日本企業の多くは300人以下の中小企業であり、国内全体でメンタルヘルス対策が遅れている現状があります。

メンタルヘルス対策が不十分な場合に生じるリスクと影響

現代では、従業員のメンタルヘルスを重要視する企業も多くなってきました。理由は「心の健康」を保つことは業績にも影響するためです。そこで、メンタルヘルス対策が不十分な場合に生じるリスクと影響について紹介します。

安全配慮義務違反となる可能性がある

労働安全衛生法第70条に基づき企業はメンタルヘルス対策を実施するよう努めなければなりません。

また労働安全衛生法の「労働契約法第5条」では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と、使用者の労働者に対する安全や健康への配慮義務を明文化しています。条文の中の「必要な配慮」にはメンタルヘルス対策も含まれると解釈されています。

社員の死亡事故や、自殺が発生した場合、企業は安全配慮義務違反に問われる可能性があることも認識しておきましょう。

生産性が下がり業績低下につながる

企業にとって、生産性は業績に直結する重要なポイントです。しかし、従業員のメンタルヘルスが悪化すると、個人はもちろんのこと、部署や会社全体の生産性低下に繋がる可能性があります。

従業員が仕事へのやる気を無くしたり、判断力が低下したりすれば業務に大きな影響を及ぼしかねません。また、遅刻や欠勤などが増える場合もあります。メンタルヘルスと業績は密接に関係することを認識しておきましょう。

事故発生のリスクが高まる

メンタルヘルス不調は注意力低下も引き起こします。注意力が低下すると、思わぬ事故やトラブルの原因になるでしょう。

運転での移動や精密機器の操作、取引先との商談など注意力を要する仕事はさまざまにあります。よって、メンタルヘルス不調が及ぼす影響もさまざまです。場合によっては本人だけでなく、周囲の方に怪我を負わせてしまうことなども考えられます。

他の従業員の負担が増加する

メンタルヘルスが悪化した本人だけでなく、その周囲の従業員にも大きな影響を与える可能性があります。業務上でのミスや遅刻、早退などが増えれば、周囲の従業員がそのフォローにまわらざるを得ません。

個人のメンタルヘルスは職場全体へと影響が及びます。特に役職者や有能な社員がメンタルヘルス不調になった場合、抱える業務やプロジェクトの重要度が高い場合が多く、周囲の負担はさらに大きくなるでしょう。

人材の確保が難しくなる

メンタルヘルス不調は食欲不振や不眠、過度な飲酒、過食などにつながり、そこから別の病気を引き起こす可能性もあります。心の病と身体の病には相関性があり、メンタルヘルス不調から身体の病気へとつながっていくこともあります。

このような状態が続けば、いずれは離職者が増加し、業績の悪化だけでなく人材の確保にも悪影響を及しかねません。

離職者やメンタルヘルス不調の従業員が多い企業にわざわざ就職したいという方は少数派です。メンタルヘルスの問題は企業の将来においても非常に重要なものとなっています。

メンタルヘルス対策における3段階のフェーズ

メンタルヘルス対策は大きく分けて3つのフェーズで構成されます。それぞれのフェーズで実施すべき内容について見ていきましょう。

1次予防:メンタルヘルス不調の未然予防

1次予防では、ストレスの要因を取り除き、メンタルヘルス不調者を出さない職場づくりを行います。職場内でメンタルヘルス不調を引き起こす原因の多くは仕事内容や人間関係、環境などが影響しています。

こうした職場の問題点を早期発見し、改善するためにもストレスチェック後の組織診断分析等で課題を把握することやカウンセリング窓口を設置するなどの体制づくりが1次予防へとつながるのです。

後述する2次予防や3次予防は、あくまでもメンタルヘルス不調者が出てからの対処法となります。この1次予防の段階でいかにメンタルヘルス不調の発生を食い止めるかが、重要となることを理解しておきましょう。

2次予防:メンタルヘルス不調の早期発見

2次予防とは、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切に対処する段階のことです。従業員自身のセルフチェックや管理監督者や家族からの相談などを受け、早期発見を目指します。

また、どんなに小さなことでも自分達で判断せず、産業医などの専門医の判断にしてもらうことが重要です。一般医院の医師は、個人の健康状態を把握することはできても、職場での状態までは把握しづらいでしょう。

一方、産業医は専門的な観点も持ちつつ、職場での状態や健康状況などを総合的に評価してくれます。従業員数50名以上の事業場は、産業医の選任が必須です。

産業医との連携を図ることで、就業上の配慮などを含めて、休職者の復帰などをサポートすることができます。

3次予防:メンタルヘルス不調者への復帰支援

3次予防では、メンタルヘルス不調者となってしまった労働者を対象に、治療と休職後の職場復帰といった取り組みを行います。

メンタルヘルス不調となり休職した従業員は「自分は社会復帰できるかどうか」と不安を感じている場合も多いです。真面目な方ほど、職場に迷惑をかけまいと復帰を急いでしまう傾向にあります。しかし、復帰を急ぐあまりに再度不調となるケースが多いのも事実です。

復帰に向けては定期的に面談を行い、状況や医師の健診結果などを元に、本人と相談しながら慎重に進める必要があります。

メンタルヘルス対策に有効な4種類のケア

厚生労働省はメンタルヘルス対策において4種類のケアを推奨しています。そこで、4つのケアそれぞれの特徴について見ていきましょう。

自分自身で行う「セルフケア」

「セルフケア」とは従業員が自分自身で行うケアのことです。研修などを通じてメンタルヘルスへの正しい理解を得ることで自身でもできる予防法を知ることができます。

また、年1回の実施義務がある「ストレスチェックによる判定」も従業員が心の状態を知るきっかけとなり有効です。

管理監督者や上司が行う「ラインによるケア」

「ラインによるケア」とは管理監督者などが行うケアのことです。ラインによるケアの「ライン」とは、職場のことを指します。

管理監督者は面談やヒアリングなどを通じて、職場環境や部下の異変に気付ける環境を構築しなければなりません。部下の代表的な異変には次のようなものがあります。

● 遅刻や早退が増える
● 無断欠勤が連続する
● 不自然な言動が多い
● ミスや事故が急に増える

企業として、ラインケアに関する知識や情報を提供する機会を管理監督者に対して用意する必要があります。ラインによるケアに関する教育や研修の実施を行うとともに、異常を感じたら即座に人事担当者に報告が入る仕組みづくりが求められます。

職場全体で行う「事業場内産業保健スタッフによるケア」

「事業場内産業保健スタッフによるケア」とは、事業所内に在籍する産業医や保健師、精神科医などと人事担当者などが連携してケアすることです。セルフケアやラインによるケアが適切に行われるように、メンタルヘルス対策の企画立案や相談窓口の設置などを中心的に行います。

産業医以外にも保健師や看護師、心理士などが在籍する事業規模の大きい組織では必須のケアです。

社外の協力も得る「事業場外資源によるケア」

「事業場外資源によるケア」とは社外のスタッフや外部機関による専門性の高いケアのことです。事業場外資源によるケアの必要性は産業医や社内の保健師によって判断されることが多いでしょう。

外部の専門機関と協力することで、より効果的なケアを実施することができます。人事担当者としては、すぐに協力が得られるようにネットワークを構築しておくことが重要です。

企業でのメンタルヘルス対策は今後さらに重要に

ここまでメンタルヘルス対策の基本知識や企業に及ぼす影響、対策のフェーズなどについて解説しました。メンタルヘルス不調は誰しもなり得る可能性がある現代の大きな課題のひとつです。今後、事業運営するにあたってメンタルヘルス対策への積極的な取り組みは必要不可欠です。

メンタルヘルス対策は、従業員が働きやすい環境を用意することはもちろんのこと、企業の生産性や企業価値を向上させるという意味においても多くのメリットがあります。メンタルヘルス対策に力を入れることが企業の競争力を高め、業績を伸ばすことにもつながります。