健康診断は会社の義務!種類と内容・診断項目について解説
人事・労務担当者の重要な業務に、健康診断の手配と実施があります。会社には、従業員が安全かつ健康に働けるように健康診断を受診させる義務がありますが、従業員の属性により、内容、受診項目は様々です。そこで今回は、健康診断の種類や項目、費用負担などを詳しく解説します。
目次
健康診断は会社の義務
会社は、従業員に対して健康診断を実施する義務があります。義務を怠ると、罰金を課されるため注意が必要です。
健康診断の実施は法律で義務付けられている
労働安全衛生法では、会社の従業員に対する健康診断の実施義務を定めています。会社は対象となる従業員に対して、必ず受診させなければなりません。
従業員の健康状態が悪いと、会社の経営にも悪影響が出ます。健全な経営には、従業員の健康が欠かせません。長時間労働による健康障害、労災訴訟等が問題となっている今の日本では、健康診断の重要性がさらに増しています。リスクを軽減するためにも、健康診断は適切な方法で行う必要があります。
会社だけでなく、従業員にも会社の健康診断を受診する義務が課されています。従業員は受診結果を会社に提出しなければなりません。
健康診断をスムーズに行うためにも、会社と従業員の双方が納得できるルールを事前に定めておきましょう。
アルバイトやパートにも健康診断を行う義務がある
健康診断の対象となるのは、「常時使用する労働者」とされています。
「常時使用する労働者」の条件は「1年以上使用する予定で、週の労働時間が正社員の4分の3以上」である者です。
受診の対象となるかどうかは、基本的に労働時間で判断します。上記に該当している場合は、アルバイトやパートも実施が必要です。勤務時間が少ないアルバイトやパートには受診させる義務はありませんが、これらの条件を満たさなかったとしても、週の労働時間が正社員の2分の1以上のときは努力義務となります。
派遣スタッフのように他会社と直接労働契約を結んでいない場合は派遣元に実施義務があります。
会社の役員も従業員ですが、健康診断の対象になる役員とならない役員がいます。常務取締役兼任工場長のような労働者性のある役員は実施対象となりますが、代表取締役社長等の事業主は対象外です。役員の受診については、労働者性の有無で判断しましょう。
義務がないとはいえ、役員の健康状態を管理しないと実務上のリスクが高まります。経営への悪影響を軽減するためにも、受診してもらうのが望ましいでしょう。
従業員の家族や配偶者は実施対象にはなりません。会社に義務が課せられているのは、労働契約を結んでいる従業員のみです。従業員の家族の健康まで責任をもつ必要はありません。
健康診断を実施しないと罰則がある
会社が健康診断の実施することは労働安全衛生法で定められているため、必ず守らなければなりません。実施義務に違反した場合は、50万円以下の罰金に処せられます。従業員の健康管理は、会社の責任で適切に実施しなければなりません。
健康診断を実施せずにいると、労働安全衛生法違反になるだけでなく、経営上も悪影響が出てきます。会社の健全な経営のためにも、健康診断は必ず行いましょう。
会社が行う健康診断の種類と内容
健康診断には大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2つの種類があります。
一般健康診断
一般健康診断には「雇い入れ時の健康診断」「定期健康診断」「特定業務従事者の健康診断」「海外派遣労働者の健康診断」「給食従業員の検便」の5種類があり、代表的なのが「定期健康診断」と「特定業務従事者の健康診断」です。
定期健康診断
定期健診は自覚症状の有無にかかわらず、従業員の健康状態を定期的に確認し、体に異常や病気の兆候がないかを調べるものです。
会社は従事する従業員に対して、1年以内に1回の定期健康診断を実施する義務があります。しかし、2020年3月以降、新型コロナウイルスの感染が拡大した状況を受け、厚生労働省から「定期健康診断は2020年6月末まで延期可能」との見解が示されています。(2021年1月時点)
定期健康診断で検査する項目は、労働安全衛生規則第44条で規定されています。
・既往歴及び業務歴の調査
・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
・身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
・胸部エックス線検査及び喀痰検査
・血圧の測定
・貧血検査
・GOT、GPT、γ-GTP検査(肝機能検査)
・LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライドの量の検査(血中脂質検査)
・血糖検査
・尿中の糖及び蛋たん白の有無の検査(尿検査)
・心電図検査
上記の項目以外にも、血液検査の項目数を多く設けたり、ガン検査を会社負担で実施したりするなど、健康診断に力を入れている会社も多数あります。
特定業務従事者の健康診断
「特定業務従事者の健康診断」は、深夜業などの特定業務に従事する労働者を対象にした健康診断です。定期健康診断と同じ項目の健康診断を行う必要があり、実施すべき時期は当該業務への配置換え時、6ヶ月以内ごとに1回となります。ただし、胸部エックス線検査については、1年以内ごとに1回、定期に行えば足りるとされています。
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特殊健康診断
特殊健康診断とは、法定の有害業務に常時従事する従業員に対して実施を義務付けている健康診断です。実施すべき時期は、雇入れ時、配置替え時、6ヶ月以内ごとに1回となります。
特殊健康診断を行わなければならないのは、以下の7業務です。
・高気圧業務
・放射線業務
・特定化学物質業務
・石綿業務
・鉛業務
・四アルキル鉛業務
・有機溶剤業務
このうち、特定化学物質業務と石綿業務は、その業務に従事しなくなった場合でも、特殊健康診断を実施する必要があります。
また、有機溶剤の使用をしている事業所には、労働基準監督署が特殊健康診断を厳しく指導しています。特にキシレンやトルエンなどの有機溶剤を使用する職場がある場合は、関係のある従業員全員に特殊健康診断を受診させる義務があります。職場環境の変化に合わせて実施する健康診断を見直すなどの柔軟な対応が必要です。
特殊健康診断の対象者に該当する従業員には、医師による特別な項目について健康診断を行います。
・業務経歴の調査
・有機溶剤の業務による、健康被害の既住歴、自覚症状、他覚症状の調査
・有機溶剤の使用により認められる症状の有無
・尿中の有機溶剤の代謝物の代謝物量の検査
・尿中のたんぱく質の有無の検査
・肝機能検査
・貧血検査
・眼底検査
特殊健康診断はさまざまな種類が存在するため、職種ごとに従業員を受診させる必要があります。普段から現場で使用する薬剤は、厳重に管理しておきましょう。
会社の健康診断の費用は誰が負担する?
健康診断の費用は会社負担になる場合と従業員の自己負担になる場合があります。
健康診断の費用は会社が全額負担する
従業員に健康診断を受けさせることは会社の義務なので、費用は会社の負担となります。
料金は病院によって異なりますが、従業員1人あたり5,000円〜15,000円が相場です。ただし、診断方法や人数によって料金は変わってきます。会社の定期健診用に見積もりを受け付けている医療機関もあります。
また、健康診断には保険が適用されません。すべて自由診療となります。
健康診断は会社と従業員の責務なので、労働時間中に受診する場合は賃金を支払うのが望ましいです。しかし、受診している間は仕事をしていないので、賃金を会社が支払わなくても違法ではありません。
受診中の賃金については、会社と従業員の間で取り決めることです。従業員から不満の声が上がることのないように、賃金の支払いをすることがベターだといえます。
再検査費用は従業員の自己負担が基本
会社には再検査を実施する義務がありません。再検査の通知までが義務で、費用は自己負担になります。
従業員にも再検査の受診義務はないので、仮に受診しなかったとしても問題はありません。どうするかは個人の判断に委ねられますが、会社は従業員が健康に働けるような配慮が必要です。再検査の必要のある従業員には検査を推奨することが望ましいです。
再検査費用は従業員の自己負担が基本ですが、会社指定の医療機関で受診する場合は、会社が負担するところも増えています。
オプション検査は従業員の自己負担が基本
従業員の中には、オプションとして人間ドックやがん検診を受診するケースがあります。オプション検査を受診したときの費用は、すべて従業員の自己負担となります。
人間ドックは精密で検査項目が多いため、費用も高額です。費用の一部、もしくは全額を会社が負担し、福利厚生として取り入れているケースもあります。
オプション検査の結果は、会社へ報告する義務はありません。
会社の健康診断の結果はいつまで保管する?
健康診断の結果は大切な個人情報なので、取り扱いは慎重にかつ適切に行う必要があります。
定期健康診断の結果は5年間保存する
会社は従業員の健康診断結果を保存しなければなりません。定期健康診断結果の保存期間は5年間です。保存方法は書面、もしくは電磁データになります。
二次健康診断の結果は保存するのが望ましい
二次健康診断の結果を会社が保存する義務はありません。ただし、従業員の健康管理を継続的に行うためにも、保存が望ましいといえます。
健康診断の結果を見るのは本人のみ
健康診断の結果は、所見の有無にかかわらず、受診者全員に文書で通知する必要があります。
ただし、従業員の健康診断の結果は大切な個人情報なので、本人の承諾なく勝手に見ることはできません。会社には厳密な管理が求められます。また、情報をどこまで開示するかは、従業員に委ねられています。
健康診断によって異常が見つかった従業員については、医師の意見を聞くことができます。医師の診断結果をもとに、労働時間や就業場所の変更などの必要な措置を取りましょう。
会社の健康診断は拒否できる?
従業員には健康診断を受診する義務があります。しかし、中には受診を拒む従業員もいます。そのような従業員を放置しておくと、会社が罰せられる可能性があるので注意が必要です。トラブルを未然に防ぐためにも、従業員に対する正しい対処法を把握しておきましょう。
会社の健康診断は拒否できない
労働安全衛生法では会社だけでなく、従業員に対しても健康診断の受診義務を定めています。会社に健康診断を義務付けているのは、従業員が安全に働けるように配慮したものなので、労働者は原則として受診しなければなりません。万が一拒否した場合は、業務命令違反となります。
従業員に受診義務があるにも関わらず、受診を拒否した従業員を会社がそのままにして健康障害が生じた場合は、損害賠償を請求される可能性があります。
受診日時・場所の調整は可能
日程や場所の都合などで、従業員が受診を拒否するケースは少なくありません。このような従業員を放っておくと、会社側に責任がのしかかってくることもあるため、受診拒否を防ぐ対策が必要です。
やむを得ない事情が発生して受診できない従業員がいる場合は、代替日時や受診場所を相談して調整しましょう。
また、従業員には医師選択の自由があるため、会社の指定した病院で受診しなくても、従業員が受診した病院の結果で代替できます。
健康診断を拒否されたときの対処法
健康診断の受診義務を怠った会社に対する罰則はありますが、従業員に対する罰則はありません。しかし、健康診断を拒否する従業員に対して、会社は就業規則の規定に従い、懲戒処分を行うことが可能です。
就業規則に健康診断の受診拒否が懲戒処分の対象となる旨を明記し、日頃から周知しておきましょう。
会社の経営に健康診断は必要不可欠
会社は従業員に健康診断を受けさせる義務があります。正社員だけでなく、一定の時間働いているアルバイトやパートにも受診させる義務が課されています。
健全な経営を維持するには、従業員の健康維持が必要不可欠です。従業員が健康を損ねてしまうと、会社にとっても貴重な労働力を失うことになります。従業員の健康を管理することは、リスク軽減に繋がります。
法律の義務だからという理由だけで健康診断を受診させるのではなく、会社と従業員の両者が健康に気持ちよく働くことの重要さを自覚することが大切です。健康診断の意義を理解し、従業員の管理を徹底しましょう。