「ストレスチェック徹底解説③」職場改善の実践方法!タイプ別成功に導く集団分析後の対応と、課題別実践事例を解説
職場改善とは、ストレスチェック結果を用いて集団分析を実施し、そこで浮かび上がった課題を解消するために行うものです。 ストレスチェック、集団分析、職場改善の一連の運用方法は、衛生委員会などで審議し定めておかなければなりません。 本記事では、その審議に役立つ、企業が行うべき対応や職場改善の進め方、取り組みの事例を解説します。
目次
ストレスチェック集団分析実施後に求められる企業の対応
ストレスチェックや集団分析を行った後は、それを適切に活用していかなければなりません。
企業が行うべき主な対応を解説します。
高ストレス判定者が多い部署・事業場を特定
まずはストレスチェック結果から、高ストレス判定者が多い部署や事業場を特定します。
一目でわかりやすい判断ポイントは、集団分析時に算出できる「総合健康リスク」の数値です。
総合健康リスクは、ストレスチェック結果を「仕事のストレス判定図」に落とし込む際に使用する値を、掛け合わせて算出するものです。
100%を超過するほど、メンタルヘルス不調のリスクが高まるため、各部署や事業場の健康リスクを一目で判断できる指標となります。
該当部署・事業場をリサーチ
前項の集団分析結果を踏まえ、該当部署や事業場に対してリサーチを行います。
その際は、所属する従業員に対しヒアリングするのが最も効率的です。
人事や管理職の目線からはわからない、現場の従業員だからこそ見えるストレス要因の把握に役立ちます。
ヒアリングの際には、従業員が話しやすい環境作りが大切です。
人目につかず声が漏れにくい個室での実施が望ましいでしょう。
そして、周囲に高ストレス判定者なのではないかと憶測を与えないようヒアリング対象は限定せず、全員に対し平等に実施するようにしましょう。
産業保健スタッフへ意見をヒアリング
集団分析結果に関して、産業保健スタッフにヒアリングを行います。
個人情報保護の観点から、具体的な人物やケースについての情報は得られません。
しかし、日頃から従業員とコミュニケーションを取っている産業医や衛生管理者などの視点は、職場改善の実践に取り入れるべき貴重なものです。
面接など従業員と直接話す機会に得られた情報だけでなく、職場巡視で客観的に得た情報も、職場改善の計画立案に生きてくる材料となります。
人事担当者を含めた産業保健スタッフ内で、こまめに連携を取るようにしましょう。
衛生委員会で振り返り次年度の改善点を洗い出す
その年度のストレスチェックが完了したら、衛生委員会などで振り返りの機会を設けます。
運用方法全般に不具合がなかったか、採用したストレスチェック手法は最適だったかなどについて議論し、次年度改善が必要な点を洗い出しておきましょう。
また、ストレスチェック推進側の意見だけでなく、従業員の意見を取り入れる姿勢も大切です。
受検率アップのためにも、実際に受検する従業員の視点を踏まえ、現実的な運用を目指しましょう。
集団分析結果は厚生労働省の定めにより5年間保存
集団分析結果の記録は、企業側で5年間保存することが望ましいと定められています。
これは、集団分析は長期視点で経年変化を観察し、さらなる分析を重ねていくことが重要とされているためです。
義務ではないため罰則は課されないものの、集団分析のより高い成果を求める上では必要な対応と言えるでしょう。
なお、ストレスチェック結果も同様に5年間の保存期間が定められていますが、労働者の同意を得ている場合は義務、得ていない場合は推奨という形になっています。
職場改善を成功に導く3タイプの取り組み
集団分析結果を基にした職場改善には、いくつかの手法があります。
主体となる人物によって、職場改善の推進方法やメリット、デメリットが異なるため、それぞれの特徴を解説します。
衛生委員会などで吟味し、自社に適した方向性を定めていきましょう。
経営層主導型
企業のトップに位置する経営層が率先して、職場改善の取り組みの舵取りをするのが経営層主導型です。
自社の課題が明確化されている場合、トップダウン型で大きな取り組みを推進できます。
■メリット
・経営判断が必要な際にスピーディーな対応が可能
・PACAを素早く回せるようになる
■デメリット
・現場から距離があるため実情の理解にギャップが生じやすく、的外れな対応や展開を招く可能性がある
・従業員の自発的な言動が制限され、受動的な姿勢に傾く可能性がある
管理監督者主導型
該当部署や事業場を最も良く理解している管理監督者が主導する職場改善が、管理監督者主導型です。
部署や事業場により課題が異なる場合、各々にマッチしたアプローチが可能となります。
■メリット
・従業員の特性や主体性を生かした取り組みの設計が可能
・管理監督者の自主性やマネジメント能力の向上が望める
■デメリット
・あくまでも管理監督者の裁量内での対応に限られる
・管理監督者の強い主観や独善的な言動が現れる可能性がある
従業員参加型
性別や年齢、役職は関係なく、各部署、事業場に所属するすべての従業員が参画する職場改善が、従業員参加型です。
■メリット
・外部の人間では目が行き届きにくい細部まで気を配り、効果的な取り組みにつなげることが可能
・チームワークの向上が期待できる
■デメリット
・人間関係に何らかのトラブルを抱えている場合は、円滑に進まない可能性がある
・一部意見のみ優遇されることのないよう、できる限りすべての従業員の参画を促す必要がある
ストレスチェック集団分析を生かした職場改善の事例とアイディア
職業性ストレス簡易調査票を用いた集団分析結果で得られた課題に対する、職場改善の事例とアイディアを紹介します。
あくまでも一例ですが、職場改善の基礎的な取り組みとなるため、おさえておきましょう。
「仕事の量的負担」が高数値の場合
仕事の量的負担の数値が高い場合、従業員が自身のキャパを超えた業務量を抱え込んでいたり、業務が最適化されていなかったりする可能性があります。
■職場改善の取り組み
・長時間労働や休日出勤の是正
・勤務体制の見直し
・設備や備品の取り扱い方法を見直し
・作業環境の整備
・幅広いリスク対策を講じる
・繁忙期などイレギュラー時の業務を改善しマニュアル化
・従業員の事情を考慮し勤務調整に応じる
「仕事のコントロール」が低数値の場合
仕事のコントロールの低数値は、業務での裁量や自由度の低さなどを示しています。
■職場改善の取り組み
・少人数単位の裁量権を広げる
・自らのやり方で業務を遂行できる余地を与える
・やりがいや達成感が得られる業務分担にする
・すべての従業員に正しい情報をわかりやすく伝える
「上司の支援」が低数値の場合
上司の支援が低数値の場合は、上司とのコミュニケーションがうまくいかず相談がしにくい状況や、信頼関係が構築できていない状況であることが懸念されます。
■職場改善の取り組み
・上司は部下が相談しやすい雰囲気作りを心がける
・オフィスレイアウトなどを工夫し会話しやすい環境を整備する
・すべての部下に平等にチャンスを与える
・チームビルディングを強化する
「同僚の支援」が低数値の場合
同僚の支援の低数値は、意思疎通の不具合が懸念され、連携不足による誤解や行き違いなどが生じるリスクが高まります。
■職場改善の取り組み
・日常的に意見交換の場などを設け、コミュニケーションの機会を意図的に増やす
・協力体制が取れるよう、上司が援助する
・ビジョンや目標を共有し、チームとしての一体感を高める
職場改善は本質的な取り組みが必須!全社を巻き込み計画的に実施しましょう
職場改善では、目的を見失わないことが重要です。
集団分析を経て、自社のネガティブな面や不足している部分を目の当たりにすると、「どうにかして早く解消しなければ」という気持ちに陥ってしまうかもしれません。
しかし焦って表面的な解消を図っても、本質的な改善が行き届いていなければ、職場改善の成功とは言えないでしょう。
職場改善の目的は、従業員のストレス要因を解消し、メンタルヘルス不調の一次予防を強化することです。
そのための取り組みは、人事だけ、経営層だけで達成できるものではありません。
すべての従業員の理解や協力があってこそだと認識し、全社の取り組みとして計画的に推し進めていきましょう。