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安全配慮義務| 2021.02.26

安全配慮義務とは何か?違反しないために必要なことは?

企業には、従業員の安全と健康をまもるための「安全配慮義務」があります。 これは「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができる」といった怪我や事故等のない「安全な環境」への配慮だけでなく、「健康診断や労働時間管理」「快適な職場環境」「職場の人間関係」といったメンタルも含めた「健康配慮義務」「職場環境配慮義務」も含まれます。 かつては労災によるケガの場面などで、安全配慮義務違反が問題になっていました。しかし、昨今ではパワハラやセクハラなどメンタル面での違反の有無が問題になっているケースも多くなっています。 安全配慮義務を怠り、なおかつ労働に関するトラブルや事故が発生してしまった場合、企業は多額の損害賠償請求を受ける可能性があります。賠償問題だけでなく、従業員の死亡事故や自殺といった場合、信用低下やネット上での炎上、風評被害等、致命的なトラブルになる可能性も高くなってきています。

目次

  • 安全配慮義務とは
  • 安全配慮義務違反を認定された実例
  • どうすると安全配慮義務違反になるのか
  • 安全配慮義務違反になった場合の対処方法と罰則
  • 安全配慮義務違反にならないためのポイント
  • 安全配慮義務違反にならないようしっかり健康管理を

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは従業員が安全かつ健康に働けるように企業が配慮することを指します。

安全配慮義務の規定は、1975年の陸上自衛隊の整備工場で、車両整備中の隊員がトラックにひかれて死亡した事故の最高裁での判例等をきっかけに明文化されました。

「配慮義務」は「~配慮をするものとする」というように法律の条文に記載されているもので、「~しなければならない」や「~してはいけない」と具体的に法律で定められているものではありません。したがって、「従業員が健康で、安全に、快適に働けるようにするため」にどのような処置が必要なのかを企業として考え、取り組む必要があります。法的根拠や過去の実例を参照に、守らなければいけない要素を見ていきます。

安全配慮義務の法的根拠

安全配慮義務は、労働契約法第5条に規定されています。

“使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。”(出典:e-gov 法令検索)

安全配慮義務は労働契約に伴い使用者が労働者に対して何らかの措置や対応を取る義務を負っています。使用者である企業は、就業の場所や機器の管理など、従業員の安全を保護するなど、従業員が安全に働けるよう配慮しないといけません。企業が安全配慮義務を怠り、従業員の安全が脅かされると、企業は債務不履行(民法415条)や不法行為責任(民法第709条)、使用者責任(民法715条)を根拠に、従業員から損害賠償請求される可能性があります。

労働安全衛生法もまた、労働契約法とは別の視点で定められています。労働者の安全や健康を確保し、快適な職場環境づくりを目的としています。労働契約法と労働安全衛生法は明確に分離できる性質のものではありません。企業は先述したような物理的な問題はもちろん、ハラスメントや従業員のメンタルヘルス不調に対する対処など精神的な面でも配慮をする必要があるのです。

上記のように「安全配慮義務」については労働契約法で明文化されていますが、労働安全衛生法では「健康配慮義務」は明文化されていません。とはいえ、従業員の過労死に伴う損害賠償請求に対して、最高裁が健康への配慮を怠ったことに対しても安全配慮義務違反を認定した判例があります。これを踏まえ、企業は労災認定や損害賠償請求責任を回避するために、診断結果はもとより従業員の健康に関する情報に基づき配慮するのが適当だと考えられています。

誰が対象になるのか?

安全配慮義務に関する法律で明記されている「使用者」や「労働者」とは誰を指すのでしょうか。使用者は、事業主である経営者や事業の経営担当である部長や課長だけでなく、会社そのものも該当します。これに対し労働者は、使用者が企業である場合、その従業員だけでなく、企業のために働いている外部の人も対象となります。直接の労働契約をしていない元請からの下請労働者や派遣先からの派遣労働者も、安全配慮義務の対象になります。

安全配慮義務違反を認定された実例

先述したように安全配慮義務は自衛隊事件をきっかけに明文化されました。このほかにも安全配慮義務違反に認定された事例は存在します。

パワハラによる休職

広告の企画や製作を目的とする会社で採用された社員が上司から継続的にいじめや嫌がらせを受け、精神疾患になり休職しました。会社は休職満了を理由にこの社員を解雇しました。社員はパワハラを理由に会社に対して損害賠償請求を起こしています。これに対し、裁判所は業務指導の範疇を超えるいじめがあったと認定し、上司に対し損害賠償義務を負うと判決が下されています。

過重労働で自殺

調理師として飲食店で働いていた社員Aが過重な長時間労働によってうつ病を発症し、自殺しました。この社員Aの母親が飲食店の経営者らに対し、損害賠償請求をしました。これに対し、長時間労働に従事させた故意あるいは過失があったとして、安全配慮義務違反に基づき経営者は社員Aの母親に対して損害賠償義務を負うという判決が下されています。

どうすると安全配慮義務違反になるのか

安全配慮義務違反のポイントは2点あります。

1点目は、従業員の心身の健康や安全を害することが予測できたかという「予見可能性」です。2点目は、事業者がこうした従業員への危害を回避する手段を用意していたかどうかという「結果回避性」です。使用者である企業がこうした手段を講じていなければ、安全配慮義務違反になります。

では具体的に、安全配慮義務違反になるケースを確認していきましょう。

過重労働

月100時間以上、あるいは2~6ヶ月のいずれかの平均で80時間以上という「過労死ライン」を超える時間外労働が原因で従業員が過労死あるいは自殺へと至った場合に、安全配慮義務違反になる可能性があります。この場合、従業員が過労死あるいは自殺することを企業が予見できたと判断されることが多いです。

また管理監督者は時間外労働や休日労働の規定は適用されないものの、過労死や自殺へと至れば企業は安全配慮義務違反に問われる可能性があります。

パワハラなどのハラスメント

職務上の権限を背景にしたパワハラや、大学の研究や教育を背景としたアカハラなど、さまざまなハラスメントがあります。業務指導と認められるかどうかは、業務の指揮監督権限を逸脱しているかどうかで判別されます。

また、「働き方改革」「ダイバーシティ」が進む昨今では、自社の「当たり前」が、一般的な企業の働き方と大きく離れていることもあるかもしれません。「うちの社風だから」といった事が、ハラスメントに該当する可能性もあります。

新型コロナウイルス感染症との関係

新型コロナウイルスの世界的流行により、従業員が感染するリスクが高まっています。企業が感染している患者を職場で働かせると、ほかの従業員へと感染するでしょう。従業員へのマスク着用やうがい、部屋の換気など、職場環境の改善を行うことが求められます。クラスターが発生すると安全配慮義務違反で訴訟に至る可能性があります。

安全配慮義務違反になった場合の対処方法と罰則

企業は安全配慮義務違反があった場合、どのような対処が求められるのでしょうか。その際、罰則として企業が負うリスクには何があるのかを説明します。

訴えられた場合の会社としての対処方法

安全配慮義務違反で損害賠償や慰謝料を請求された場合、企業はまずその労働者の主張内容を確認する必要があります。この際、労働者が何に起因して安全配慮義務に違反していると主張しているのかを書面で提出させるといいでしょう。

企業は労働者が主張する事実があったかどうかを判断します。パワハラや過重労働の場合には、加害者などからヒアリングを行う必要があるでしょう。事実が確認された場合には、企業は労働者に対し休業補償をしたり、再発防止に取り組んだりします。他方、安全配慮義務違反がなかった場合には、請求に応じられないことを書面で伝える必要があるでしょう。

安全配慮義務に違反した場合の罰則

債務不履行、不法行為、使用者責任を根拠に、安全配慮義務違反になった場合には、事業主である企業が労働者に対して損害賠償の義務を負うことになります。

また、安全配慮義務の違反でメディアに取り上げられた場合、時として大きなニュースになることもあります。その場合は、企業イメージが大きく損なわれるなど社会的な信用を失うなど、重大なダメージにつながります。特に「過労による健康障害」や「うつ病による自殺」などといった場合、どれもが企業のイメージダウンになっている例はご存じのとおりです。

安全配慮義務違反にならないためのポイント

企業が安全配慮義務違反にならないために、労働環境を把握しハラスメントのない職場づくりをしたり、産業医との連携を行ったりするなど事前の対策が必要です。

過重労働の防止

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の施行により大企業が2019年4月から、中小企業が2020年4月から、時間外労働の上限規制が導入され、原則として月45時間、年360時間以上の残業ができなくなっています。過重労働が起きないよう、タイムカードなどで労働時間を管理するのが基本です。

また、タイムカードに記録されない残業があるかの確認も重要でしょう。持ち帰り残業や直行直帰の残業がないかなど、正しい労働時間の把握が必要です。長時間労働が常態化している場合には、管理監督者に対しマネジメント研修を行い、長時間労働をなくす対策が求められるでしょう。

ハラスメントの防止

企業はハラスメントがあったかどうかを調査し、ハラスメントの防止や配置転換などを行う必要があります。ハラスメントが故意でないケースも多いため、研修を通じて何がハラスメントに該当するかを管理監督者に教育することでハラスメントの防止策になるでしょう。いずれにせよ、ハラスメントを許さないという姿勢を企業が示す必要があります。

社員の健康管理

企業は1年ごとに従業員の健康診断が義務づけられており、この結果に基づき異常が確認された場合には医師の意見を仰ぎ、就業場所の変更や労働時間の短縮を行う必要があります。業態や事業規模により、従業員の健康に悪影響が出ないよう労働者に対し指示できる安全衛生管理者の設置が義務づけられています。また、労働者に対して安全衛生の教育も行いましょう。危険防止策など対処法の教育も重要です。

安全配慮義務違反にならないようしっかり健康管理を

企業が安全配慮義務を負い必要な配慮をすることは、労働者が健康で安全に働ける環境が整うことにつながります。過重労働やパワハラから労働者の健康や安全が確保されないなど、違反にあたると認められた場合、企業は労働者の損害に対して賠償しなければならない可能性があり、さらに社会的なダメージを負うでしょう。こういう事態に陥らないためにも、労働者の健康や安全管理をしっかりと行うことが求められます。