リモハラ事例を解説!従業員を被害者・加害者にしないための企業の対策
令和2年6月、パワハラ防止法が施行となりました。 より一層のハラスメント対策が急務となる中、最近はリモートワークを起因とするリモハラ(リモートハラスメント)の被害が広がりを見せています。 今回は、リモハラの原因や事例、企業として行うべき対策を解説していきます。
目次
リモハラとはリモートワーク中に起こるハラスメント
リモハラ(リモートハラスメント)とは、在宅勤務やリモートワーク、テレワークなどにより、通常の就業場所を離れた遠隔地で勤務する従業員に対し、オンラインを介して行われるハラスメントの一種です。
ハラスメントと言うと、パワハラやモラハラ、セクハラ、マタハラなどが挙げられますが、これらは行為そのものにフォーカスされたものです。
一方のリモハラは「オンラインを介する」という、ハラスメントが発生するシチュエーションにフォーカスされています。
つまり、オンラインを介して行われる上記ハラスメントは、すべてリモハラに包括されると言えます。
リモハラ被害拡大のきっかけは新型コロナウイルスの流行によるテレワークの普及
リモハラが拡大する大きなきっかけとなったのは、令和2年から始まった新型コロナウイルスの流行です。
感染拡大予防対策の観点により、政府がテレワークの導入を大々的に推進し始めたことで、令和3年現在、テレワークは従来よりも格段に身近な存在となりました。
テレワーク導入に伴い、企業側はさまざまな対応に追われましたが、困難な状況下でも諸々の整備を完了しテレワークに適応した企業は、コロナ禍でも一定の企業活動を行っています。
しかし、その一方で浮き彫りとなったのが、テレワークならではの問題点です。
その最たるものと言えるのが、今回解説するリモハラと言えるでしょう。
上司のコミュニケーションを不快に感じた人は約80%
テレワークの本格的な普及から間もない令和2年5月の時点で、リモハラの兆候は見受けられていました。
ある調査会社の発表によると、テレワークにおける上司とコミュニケーションに対し、不快感やストレスを受けていた方は、全体の80%に迫る勢いだったことが判明しています。
不快感やストレスの原因としては、上司の監視や過剰なコミュニケーションの要求、口調の厳しさ、仕事とプライベートを混同しているなどの意見が挙げられています。
自社にリモハラがあると感じている人は約30%
そして前項調査から約半年後の令和2年12月、ある企業が実施した調査によると、男性は約38%、女性は約23%の方が、自社や部署内でリモハラが起きていると感じていることがわかりました。
具体的には、チャット上での嫌がらせや勤務時間外の電話、出社を強要されたり不当な評価を受けたりするという内容が見受けられ、テレワークの浸透とともにリモハラ被害の内容は過激になりつつあります。
管理職も部下とのコミュニケーションに悩みを抱えている
しかしその上司も、リモートワークにおける上司のあるべき姿に思い悩んでいるのです。
人事関連の研究所が実施した調査において、上司が抱える不安の理由を見てみると、半数近くの管理職が「業務の進捗状況がつかめない」「オンラインのコミュニケーションで相手の気持ちが読み取りにくい」と答えていました。
要因は違えど、テレワークにおける不安は役職や立場にかかわらず、すべてのビジネスパーソンに共通するものであることが、この結果から伺えます。
上司の対応に思い悩む部下たちの裏側で、上司もまたマネジメント業務に対する不安を抱えているのです。
しかしその上司も、リモートワークにおける上司のあるべき姿に思い悩んでいるのです。
人事関連の研究所が実施した調査において、上司が抱える不安の理由を見てみると、半数近くの管理職が「業務の進捗状況がつかめない」「オンラインのコミュニケーションで相手の気持ちが読み取りにくい」と答えていました。
要因は違えど、テレワークにおける不安は役職や立場にかかわらず、すべてのビジネスパーソンに共通するものであることが、この結果から伺えます。
上司の対応に思い悩む部下たちの裏側で、上司もまたマネジメント業務に対する不安を抱えているのです。
リモハラを引き起こす原因はリモート特有のシチュエーション
リモハラは「リモートハラスメント」という名の通り、リモートワーク特有のシチュエーションが誘発するハラスメントです。
そこで、リモート環境のどのようなポイントがリモハラにつながる可能性があるのか、具体的なポイントを5つ挙げていきます。
非日常感が増し距離感を見誤ってしまう
出社時と業務に変わりがなくても、オフィスを離れ上司や同僚の目がないことに加え、自宅のプライベート空間でのリモートワークは、どこか非日常を感じてしまうものです。
その結果、つい気が大きくなってコミュニケーション方法や距離感を見誤り、思いがけずリモハラ的な言動をしてしまうということも考えられます。
仕事とプライベートの切り替えが難しい
リモートワークでは、オンとオフの境界性が非常に曖昧で、精神的な切り替えも難しくなります。
「ひとたびパソコンを開けば、自宅が職場に様変わりする」というシチュエーションこそが、リモートワークのメリットでもあり、デメリットでもあります。
しかし、人の感情はそう簡単に割り切れるものでもなく、プライベートの感情の延長線上で同僚や部下に接してしまうこともあるでしょう。
また、ドア1枚向こう側に家族がおり、仕事に集中しきれない状況下の中、必死に働く従業員もいるでしょう。
それぞれが抱える仕事とプライベートの切り替えの難しさは、リモハラを誘発する大きな要因です。
web会議によって自宅のプライベート空間が伝わってしまう
リモートワークに伴い、会議やミーティングもツールを使用しオンラインで行われることが増加しました。
それ自体は決して悪いことではありませんが、webカメラの使用によってリモハラが誘発されるリスクが高まります。
本人の姿はもちろんのこと、部屋の様子も少なからず垣間見えることになるため、プライベート空間が相手に伝わってしまうのです。
その結果、一方的に親近感を募らせ性的なリモハラを行ったり、悪意ある指摘したりする事例も報告されています。
目が行き届かない不安により過剰な干渉や指示が増える
リモートワークでは、意図的に確認しようとしなければ、相手の状況を知る由がありません。
そのため、状況確認や業務指示の電話やチャットが増えがちになります。
ある程度は致し方ないことではありますが、それが過剰になればリモハラの要因となります。
先述したように、部下とのコミュニケーションや進捗確認に戸惑う管理職も多くいる現状です。
まじめで責任感が強い管理職ほど、その思いが裏目に出て、リモハラを引き起こしてしまう可能性があるでしょう。
コロナ禍による環境の変化は多くの人にストレスを与えている
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、仕事に限らず人生の多くの場面で変化が生じました。
今まで当たり前のようにできていたことが制限され、会いたい人と自由に会えなくなり、皆多かれ少なかれストレスを感じてきたはずです。
そのような毎日の中で、徐々にメンタルヘルス不調が進行している方もいるかもしれません。
思い通りにいかない憤りが引き金となり、リモハラに該当する言動を取ってしまったという事例も考えられます。
リモハラの事例
冒頭でも触れたように、パワハラやモラハラなどを包括するハラスメントがリモハラです。
そのため、リモハラとひと言で言っても、その事例は多種多様で、一概に断定することは難しいのが実情です。
今回は、その中でも良くある事例を挙げていきます。
事例①過剰な監視や干渉、指示などのパワーハラスメント、モラルハラスメント
各々が異なる場所にいて、相手の姿がすぐに確認できない状況下では、パワハラやモラハラを誘発しやすくなります。以下が主な事例です。
・webカメラやマイクの常時ON、web会議の常時ログインを要求される
・レスポンスが少し遅れただけでさぼっているのかと怒られる
・過剰な報連相を求められる
・業務時間外に連絡に応じるよう求められる
・チャットグループなどで孤立するように仕向けられる
・自宅の様子をwebカメラで映すよう指示される
・目的が不明瞭なオンライン会議への参加を求められる
・オンライン飲み会に執拗に誘われる
・子供の話し声や泣き声に対して叱責される
事例②性的な言動を求めるセクシャルハラスメント
主に、男性上司が女性部下に対して行うケースが多いのがセクハラです。
セクハラの内容も千差万別ですが、webカメラで生活感が垣間見えることが引き金になるケースも多いようです。主な事例としては、以下が挙げられます。
・メイクや髪型、服装、体系に関して指摘される
・「いつもの服装と雰囲気が違っていいね」などと言われる
・服装を指定され着替えるよう指示される
・webカメラに全身を写すように指示される
・バーチャル背景の利用を禁止され部屋の中を見せるよう言われる
・性的な会話を促される
・業務外の連絡を求められる
・SNSのアカウントを聞き出そうとする
・自宅の場所を特定しようとする
・家族や恋人などの同居人に関することを聞いてくる
従業員からリモハラ被害報告を受けた人事担当者の初動対応
従業員からリモハラ被害を相談された場合は、ことを大きくしないのが大前提です。
リモハラ行為者とされる従業員はもちろんのこと、周囲の従業員にも相談を受けた事実や内容を開示しないよう配慮しましょう。
そして人事担当者の初動としては、相談者の気持ちを落ち着かせ安心させるためにも、否定せずに話を最後まで聞き、気持ちに寄り添うことが大切です。
ただしこの際には、感情移入しすぎて「それは完全にリモハラです」とその場でリモハラを断定したり、「〇〇部長はおかしい」と主観で発言したりするのは控えます。
あくまでも客観的視点で、事実関係の確認に努めましょう。
そして、相談者が今後どうしたいのか意思を確認した上で、リモハラ行為者からも聞き取りを行います。
双方の話を聞いた上で、その後の対応に進みましょう。
従業員をリモハラ被害者・加害者にしないために企業ができる対策
「リモハラをやる従業員が悪い」と結論付け、根本的な問題から目を背けていては、企業、従業員双方の成長や明るい未来にはつながりません。
企業として、従業員をリモハラの被害者や加害者にしないために、できる策は講じるべきです。
以下の内容を参考に、自社での取り組みを検討してみましょう。
リモハラについて社内教育の実施
何はともあれ、リモハラについての正しい知識がなければ始まりません。
リモハラをさせないために、受けないために、従業員に適切な教育を実施しましょう。
社員教育の実施にあたっては、自社の業務スタイルに合わせて、従業員が負担を感じにくい手法、形式、日程で企画する必要があります。
教育の目的は、従業員に受講させること自体ではなく、リモハラの正しい知識を習得させることにあると心得て、最適の方法を選択しましょう。
管理職へ適切なマネジメントを促す
管理職には、マネジメント手法の見直しを促す必要があります。
ただし、その見直しに必要な知識の土台作りは、企業側が先導すべきです。
先述したように、リモートワークにおけるマネジメント手法に関して、自信が持てずにいる管理職は一定数います。
その中で、「リモートワークに適した振る舞いがわからないがために、知らず知らずのうちにリモハラに手を染めていた」という管理職を生み出さないためには、企業側のサポートが必須でしょう。
いくら素晴らしいマネジメント手腕を持ち合わせいる管理職がいても、環境や知識の土台が整備されていなければ、能力を最大化することはできません。
管理職のリモハラに対する知識を強化し、リモートの時代に即したマネジメントの基盤作りを推し進めましょう。
リモートワーク中のマナーやルールを定める
意図せずリモハラを行っていたという事態を防ぐためにも、リモートワークに関する規程の制定は必須です。
ルール化されてない状況では、各々の価値観やさじ加減に依存する形となります。
その結果、従業員間で認識の齟齬が生まれ、リモハラに発展する可能性も想定されます。
リモートワークの中、企業側が個別ケースをすべて把握し、都度指導するのは現実的ではありません。
ルールは従業員を縛るものではなく、守るために存在すると認識し、いち早くルール化に着手しましょう。
ハラスメント相談窓口の設置、周知
リモハラに関して疑問を持つ従業員や、リモハラをしてしまったかもしれない、受けたかもしれないという従業員が、いつでも相談できる窓口の設置も有効です。
可能であれば、男女各1名以上の担当者を選任するのが望ましいでしょう。
そして効果的に運用するために、全社への周知も必ず行いましょう。
窓口の設置により、担当者が直接的にリモハラ事例に対応でき、自社の実態をより詳細に把握できます。
しかしデリケートな問題でもあるので、なかには相談したくても言い出せない従業員もいるかもしれません。
そのため、プライバシーへの配慮を明示し、相談することで不利益が発生することはないという旨も、併せて周知しましょう。
行政もリモハラ事例を重く受け止め対策に乗り出している
リモハラへの対策に乗り出したのは、企業だけにとどまりません。
令和3年5月、東京都はリモハラ事例が多発している現状を重く受け止め、リモハラ相談窓口を設置しました。
2日間の限定的なものではありますが、このような取り組みは、自社の関係者に相談できずひとり思い悩むリモハラ被害者にとって、駆け込み寺のような存在になるかもしれません。
そのため、自社でのリモハラ対策の推進は進めつつも、同時に社外窓口に関しても従業員へ情報共有するのが望ましいでしょう。
リモハラへの正しい知識、対策で被害者と加害者を生み出さない
誰もが被害者、加害者になり得るのがリモハラです。
その一方で、正しい知識と相手の気持ちに寄り添える余裕があれば、確実に防げるものでもあります。
そのため企業は、従業員の裁量に依存せず、リモハラの知識を適切に指導しなければなりません。
加えて、日頃から従業員のメンタルヘルス状態に気を配り、一次予防対策と不調者への迅速なケアを実施することも重要です。
対症療法的な取り組みでその場をしのぐようなやり方では、従業員を守り切ることはできません。
たとえ地道でも、本質的な取り組みを強化することが、何よりも有効であることを認識しましょう。