産業医オンライン面接指導の重要ポイント【コロナ禍の産業保健活動】
新型コロナウイルスの流行により、産業保健活動のあり方も大きく変化しています。 従来対面が義務付けられていた産業医面接も、オンライン実施が認められることになりました。 コロナ禍の現代において、感染拡大防止対策などの企業の取り組みは、従業員やその家族を守るだけでなく、社会的評価や信用につながる側面もあるため、オンライン化への適応は積極的に進めたいところです。 今回は、産業医によるオンライン面接の実施について、重要なポイントを解説していきます。
目次
コロナ禍での産業保健活動はオンラインへ移行
令和2年に新型コロナウイルスが世界的に流行し、令和3年の今もなお私たちの生活はコロナ禍の中、不自由を強いられています。
そして感染拡大防止の観点から、多くの企業で出社を伴わないテレワークが採用されるなど、働き方にも大きな変化が訪れました。
たとえば産業保健活動の一環である産業医面接では、「従業員が面接を受けるために出社し、その準備やサポートのために人事担当者も出社しなければならない」というケースが多くの企業で起こっていたことでしょう。
しかし現在のコロナ禍により、あらゆる業務領域で「確かに出社し対面で行うに越したことはないけれど、必ずしも限定する必要はないだろう」といった方向性に風向きが変わり、上記の産業医面接を含め産業保健活動に関しても、政府はオンライン化への本格対応に踏み切りました。
新型コロナウイルスの流行、そしてコロナ禍は、長らく見てみぬふりがされてきた慣習による無駄を排除する絶好のタイミングと言えます。
厚生労働省により面接指導の実施条件が改正されオンライン活用の追い風に
上記のような前提があり、産業医によるオンライン面接指導に関する通達が、令和2年11月に厚生労働省より公表されました。すでに公表済みのものを、一部改正した形です。
改正により、産業医によるオンライン面接の浸透を後押しする内容となりました。
直接対面による実施義務が緩和
改正前の通達では、原則的に直接対面の上で面接指導を行うようにと記されていました。
しかし改正により原則の文言が排除され、「医師が必要と判断した場合においては、直接対面の上で実施」という記載に変更されています。
いずれにしても、従業員と産業医との円滑なコミュニケーションが取れる手段を推奨されているので、人事担当者は配慮するよう心がけましょう。
産業医に提供すべき従業員情報が追加
産業医面接の際には、人事担当者から産業医に、従業員情報を提供するよう定められています。
今回の改正で、以下のように提供すべき主な情報が追加されました。
■改正前
労働時間などの勤怠情報
作業環境
■改正後
面接対象者が所属する事業場の事業概要、業務内容、作業環境
面接対象者の業務内容、勤怠情報、作業環境
産業医が精度の高い面接指導を実施できるよう、より詳細な情報提供が求められています。
オンライン面接の実施条件が緩和
オンライン面接の実現には、実施する産業医に関していくつかの条件が設けられています。
改正前は以下4つのうちいずれかに該当していなければなりませんでした。
しかし今回の改正により、いずれも努力義務にとどめられています。
加えて、「4」に関しては直接対面での指導などが求められていましたが、その実績も不問となりました。
1. 対象事業場の産業医であること
2. 少なくても過去1年以上に渡り、対象事業場に所属する従業員の日常的な健康管理に携わっていること
3. 過去1年以内に、対象事業場での巡視実績があること
4. 過去1年以内に、面接対象者への指導などの実績があること
オンライン面接での懸念は対面と同等のクオリティが担保されるか
オンライン面接の実施において最も配慮が必要な点は、面接環境や条件、面接内容のクオリティを対面時と同等レベルで実現することです。
厚生労働省は産業医による面接指導について、「問診などにより、従業員の心身の健康状態を把握、必要な指導を行うこと」という考え方のベースを示しています。
これを不備なく実行するためには、従業員の話す内容はもちろんのこと、表情や顔色、声色、話し方などの視覚や聴覚から得られる情報を、産業医がいかに正確に受け取れるかという点が肝です。
そのため従来では、従業員の様子を適切に把握し円滑なコミュニケーションが取れる、対面での面接指導が義務付けられていました。
しかし昨今のコロナ禍を受け、オンライン化やテレワークへの対応ニーズが向上したことで、今回通達の改正をもって適応する形が取られています。
手段がオンライン面接に変わっても、面接指導の目的達成のために対面時のクオリティを確保するよう、人事担当者は配慮し、準備や対応にあたらなければなりません。
オンライン面接実施における企業の留意ポイント
厚生労働省から公表された通達、および令和3年3月に新たに公表されたオンライン面接を含めた産業医の職務に関して留意事項内では、オンライン面接の実施にあたって以下のような留意ポイントが定められています。
・従業員のプライバシー保護のため、従業員側、産業医側共に、面接場所の周辺環境などへ配慮すること
・遠隔地にいる産業医に対し、面接指導に必要な情報が円滑に提供できる仕組みを構築すること
・産業医が必要と判断した場合、事業場において作業環境などの確認が行える仕組みを構築すること
・緊急事態に備え、事業場周辺の医療機関との連携や、産業保健スタッフの緊急時対応体制を構築すること
オンライン面接では条件を満たしたデバイスを使用しなければならない
オンライン面接を円滑に実施するには、使用するパソコンやタブレット、スマートフォンなどのデバイスや、接続するネットワーク環境の状態が重要です。
オンライン面接では、以下の条件を満たすことが義務付けられています。
・産業医、従業員双方が、相手の表情や顔色、声色、話し方、仕草などを鮮明に把握できるものを使用すること
・音声や映像に乱れがない、安定したネットワーク環境を確保すること
・情報漏洩や不正アクセスの防止の情報セキュリティを確保すること
・シンプルでわかりやすく、簡単に操作できるデバイスを使用すること
ただ上記の条件をすべて満たすことが大前提ではあるものの、予期せぬトラブルが起こる可能性が全くないとは言い切れません。
そのため、万が一デバイスに不具合が発生したり、ネットワークが切断されたりした場合、どのような対応を取るかあらかじめ定め、従業員や産業医と共有しておくと安心です。
オンライン面接の実施方法は衛生委員会で審議が実施
公表済みの通達により、オンライン面接の実施方法は、あらかじめ衛生委員会などで審議をし、決定事項を従業員へ周知するよう定められています。
つまりオンライン面接の実施は、今日明日ですぐにスタートできるものではないということです。
体制構築にある程度の時間を要するため、先を見越して早めに着手するよう心がけましょう。
なお、衛生委員会に関しても、オンラインでの実施が認められています。
オンライン化のボーダーラインを的確に見極めコロナ禍における人事業務を最適化しましょう
オンライン化、テレワークが推進され、産業保健活動も新時代に突入しています。
通達の改正により、かつての縛りが緩和されたことで、多くの企業でオンライン面接の導入が推進しやすい状況となりました。
従業員とのコミュニケーションなど、守りたいアナログ的な慣習もありますが、少し先の未来を見据え、オンライン化できるものは積極的に移行し、人事業務の最適化を目指しましょう。