2021年春の主要法改正まとめ~人事労務担当者が押さえるべき変更点を解説

2021年3月から4月にかけて従業員の雇用にかかわる複数の法律で改正法の施行等が行われました。人事労務担当者が把握しておくべき2021年春の主要な法改正は次の5つです。

【2021年春の主要法改正】
  ●障害者雇用促進法:法定雇用率の引き上げ
  ●パートタイム・有期雇用労働法:
   中小企業への同一労働同一賃金ルールの適用
  ●労働施策総合推進法:中途採用比率の公表義務化
  ●高年齢者雇用安定法:70歳までの就業機会の確保(努力義務)
  ●年金制度改正法:脱退一時金の支給上限年数の引き上げ

法改正を把握しておらず対応漏れがあると、罰則等の対象となる可能性も就業規則の改定などが必要になる場合があります。今回の記事では上記の法律について解説するので、把握漏れがないかどうか今一度確認するようにしてください。

※この記事は2021年4月時点の情報をもとにしています。最新情報については厚生労働省HPなどで確認してください。

健康管理システムの他社事例を紹介
健康管理システム導入の段階から、導入後の業務改善についてインタビュー。労務担当者の業務負担が改善された事例を3件ご紹介します。自社と照らし合わせてご活用ください。
詳細はこちら

障害者の法定雇用率の引き上げ(3/1施行)

障害者の法定雇用率は過去に何度か引き上げが行われましたが、2021年3月にも引き上げられ、て従来より0.1%高くなっています。率の変更で影響を受ける企業と受けない企業があり、法改正により新たに義務が生じる企業の人事労務担当者は特に注意が必要です。

民間企業の法定雇用率が2.2%から2.3%へ変更

障害者雇用促進法で規定される法定雇用率は2021年3月から次のように変更されています。

今回の引き上げは2018年4月施行の改正法で規定されたもので、今まで経過措置が取られていたため実際の引き上げは2021年3月からになりました。法定雇用率を達成するには次の式で求めた人数以上の障害者を雇用する必要があり、企業によっては率の引き上げに伴って人数が変わるので注意が必要です。

・障害者の法定雇用率を満たす雇用者数=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×法定雇用率
  ※計算して1未満の端数が生じた場合は切捨て
  ※雇用する障害者のうち短期労働者は0.5人、重度障害者は2人としてカウント

例えば常用労働者数1,000人の民間企業の場合、法定雇用率を満たす人数は従来の22人から23人に増えることになります。

仮にこの企業が25人の障害者を雇用している場合、法定雇用率を達成している点では従来と変わりません。ただし、超過人数が従来の3人から2人に変わるため、障害者雇用調整金(超過1人分につき2.7万円)が今までの8.1万円から5.4万円に減額になります。

企業によっては障害者雇用納付金や障害者雇用調整金の基準人数が変わり、納付金や調整金の額が変わる点に注意してください。

従業員数が43.5人以上45.5人未満の企業は要注意

今回の法定雇用率の変更に伴い、障害者を雇用しなければならない民間企業の範囲が従業員数45.5人以上から43.5人以上に変わります。

例えば従業員数45人の企業の場合、従来の法定雇用率2.2%では従業員数×法定雇用率が0.99人で、1未満の端数切捨後の人数は0人になるため雇用義務は生じませんでした。しかし2.3%では従業員数×法定雇用率が1.035人になり、端数切捨後の人数が1人になるため今後は制度の対象です。

従業員数が43.5人以上45.5人未満の企業には新たに以下の義務が生じます。人事労務担当者は障害者雇用促進法の規定を正しく理解した上で、必要な対応を取る必要があります

  ●毎年6/1時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければならない
  ●障害者の雇用の促進と継続を図るための障害者雇用推進者を
   選任するよう努めなければならない

今回の法定雇用率の変更に伴い、障害者を雇用しなければならない民間企業の範囲が従業員数45.5人以上から43.5人以上に変わります。

例えば従業員数45人の企業の場合、従来の法定雇用率2.2%では従業員数×法定雇用率が0.99人で、1未満の端数切捨後の人数は0人になるため雇用義務は生じませんでした。しかし2.3%では従業員数×法定雇用率が1.035人になり、端数切捨後の人数が1人になるため今後は制度の対象です。

従業員数が43.5人以上45.5人未満の企業には新たに以下の義務が生じます。人事労務担当者は障害者雇用促進法の規定を正しく理解した上で、必要な対応を取る必要がありますなお、障害者の雇用状況の報告方法については以下の厚生労働省HPで確認できます。
高年齢者・障害者雇用状況報告の提出について(厚生労働省)

まずは自社への法改正の影響の有無を確認

従業員数43.5人未満の企業は引き続き制度の対象外ですが、43.5人以上の企業では法改正による影響がある場合とない場合があります。法改正に伴う影響が自社にあるのか、何か対応が必要なのか、まずは確認が必要です。

例えば従業員数400人の企業は従来の法定雇用率2.2%では8.8人になり8人、変更後の2.3%では9.2人になり9人で人数が変更になります。一方で従業員数300人の企業の場合は2.2%では6.6人で6人、2.3%では6.9人で6人と、法改正前後で人数に変更はありません。

法定雇用率を満たす人数が増えて障害者を追加採用する場合は、採用後に配属する部署を決めたり配属予定先の所属で準備をしたりと、何らかの対応が必要になることがあります。

また、新たに制度の対象になったことを受けて初めて障害者を雇用する場合、人事労務担当者は障害者雇用に関する制度の内容や手続きを理解しておかなければいけません。障害者雇用のルールは以下のサイトに掲載されているので確認するようにしてください。

同一労働・同一賃金の義務が中小企業に適用(4/1施行)

労働者の均等待遇について定めるパートタイム・有期雇用労働法は、働き方改革関連法のひとつで2020年4月に施行された法律です。大企業には同一労働・同一賃金に関する規定が法施行時から適用されていましたが、2021年4月からは中小企業も適用対象になります。

不合理な待遇差の禁止(パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条)

同一企業内において正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者の間で不合理な待遇差を設けることが禁止されています。職務内容が同じにもかかわらず雇用形態の違いを理由に待遇差を設けることや、職務内容の違いに基づいて待遇差を設ける場合にその差が不合理であることは認められません。基本給や賞与などの賃金だけでなく、福利厚生やキャリア形成・能力開発などあらゆる待遇が対象です。
「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要
例えば賃金の決定基準・ルールの相違は、職務内容や職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして合理的である必要があります。仮に正社員に比べてパートの賃金が低い場合、「パートだから」「期待される役割が違うから」といった抽象的な説明では合理的とは言えません。

なお、同一労働同一賃金ガイドラインでは不合理な待遇差として問題となる例・問題とならない例がそれぞれ記載されています。実務では人事労務担当者が合理・不合理の判断で迷うことが考えられるため、厚生労働省が提供している資料なども確認・活用してください。
同一労働同一賃金ガイドライン

労働者への待遇に関する説明義務の強化(パートタイム・有期雇用労働法第14条)

パートタイム労働者・有期雇用労働者は、正社員との待遇差の内容や理由などについて事業主に説明を求めることができます。事業主は労働者からの求めがあった場合は説明しなければならず、説明を求めた労働者に対して不利益な取り扱いをしてはいけません。

また、有期雇用労働者に対する「雇用管理上の措置の内容及び待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務」が創設されました。パートタイム労働者に関してはパートタイム労働法で既に規定されていましたが、今回の法整備により有期雇用労働者も対象になります。有期雇用労働者の雇入れ時などに必要な説明を行うようにしてください。

裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備(パートタイム・有期雇用労働法第24条)

パートタイム・有期雇用労働法で規定されている均衡待遇や待遇差の内容・理由に関する説明は行政ADRの対象になります。行政ADRとは事業主と労働者との間の紛争を裁判をせずに解決する手続きで、都道府県労働局で無料・非公開で行う紛争解決手続きです。

また、有期雇用労働者についても行政による助言・指導等の根拠となる規定が整備されました。パートタイム労働法で対象になっているパートタイム労働者と同じく、今後は有期雇用労働者についても行政による助言・指導等の対象になります。

チェックツールや手順書の活用がおすすめ

厚生労働省HPでは「パートタイム・有期雇用労働法対応状況チェックツール」などさまざまなツールが提供されています。チェックツールを使えば自社の取組状況の点検がしやすくなるので、対応がまだの企業はツールを使って早急に点検作業を行いましょう。
同一労働同一賃金特集ページ(厚生労働省)

また、上記のサイトに掲載されている「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」の活用もおすすめです。社内の制度を点検する際の手順や各手順で重要になるポイントがまとめられています。

リーフレットやポスターなどもうまく活用しながら、人事労務担当者が中心となって2021年春の法改正の内容を周知するようにしてください。

正規雇用労働者の中途採用比率の公表(4/1施行)

労働施策総合推進法が改正され、2021年4月から正規雇用労働者の中途採用比率の公表が義務化されました。対象となるのは一定規模以上の企業ですが、該当する企業の人事労務担当者は中途採用比率の計算方法や公表方法などを理解しておく必要があります。

常時雇用する労働者が301人以上の企業が対象(労働施策総合推進法第27条の2)

中途採用比率の公表の義務が課されるのは、常時雇用する労働者が301人以上の企業です。「正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合」を公表しなければいけません。

中途採用とは新規学卒等採用者以外の雇入れを指し、内定者は含みませんが公表対象年度の終了時点で雇用が開始されていれば、試用期間中の者でも計算に含まれます。公表時点で退職済でも、公表対象の年度内に採用して勤務を開始した者は人数に含めて計算してください。

また、高年齢者雇用安定法上の継続雇用制度における再雇用労働者は中途採用に含まれず、学生のアルバイトも原則として含まれません。一方で、例えば契約社員として契約後に正規雇用労働者に転換した場合は、正規雇用労働者に転換した事業年度の中途採用として扱います。

おおむね1年に1回直近3事業年度分の公表が必要(労働施策総合推進法施行規則第9条の2)

中途採用比率はおおむね1年に1回、直近3事業年度分について事業年度ごとのデータを公表する必要があります。初回の公表は2021年4月1日の法施行後最初の事業年度内に、2度目以降は前回の公表からおおむね1年以内に速やかに公表を行ってください。

また、公表はインターネットの利用その他の方法により求職者が容易に閲覧できる方法で行わなければいけません。「インターネットの利用その他の方法」とは具体的には、自社のホームページの利用や事業所への掲示・書類の備え付けなどを指します。

なお、採用自体を行っていない年についてはその旨を記載して公表すれば問題ありません。

制度の趣旨や目的を理解して適切な対応を

そもそも今回の法改正は、労働者の主体的なキャリア形成による職業生活の更なる充実や再チャレンジが可能となるよう、中途採用に関する環境整備を推進することが目的です。人生100年時代において職業生活の長期化が見込まれる中、時代の変化にあわせて今回の法改正が行われました。

公表の義務に違反しても罰則はなく、都道府県労働局等へ提出する書類等に比率を記載することはありませんが、法改正の趣旨や目的を理解して適切に対応するようにしてください。
正規雇用労働者の中途採用比率の公表(厚生労働省)

70歳までの就業機会の確保(4/1施行)

2021年4月から改正法が施行され、「65歳までの雇用機会の確保」を定める高年齢者雇用安定法に「70歳までの就業機会の確保」の規定が追加されました。

あくまで努力規定であり罰則はありませんが、ハローワークによる指導・助言の対象となる場合があります。企業の人事労務担当者は法改正の内容を確認して必要な措置を講じるようにしてください。

努力義務対象は一定の条件に該当する事業主

70歳までの就業機会の確保に関する努力義務の対象になるのは以下の事業主です。

  ●定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
  ●65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)
   を導入している事業主

該当する事業主は次に解説する高年齢者就業確保措置を取るように努める必要があります。なお、上記に該当しなければ努力義務の対象にはならないので、定年制を廃止している企業や定年が70歳以上の企業などは今回の法改正による影響はありません。

対象となる措置は定年制の廃止など5種類

努力義務の対象となる事業主は、以下のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講ずるよう努めなければいけません。5つの措置のうち①~③は継続雇用に関する措置、④および⑤は創業支援等措置と呼ばれる雇用によらない措置です。

  ① 70歳までの定年引き上げ
  ② 定年制の廃止
  ③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
  ④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  ⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

なお、高年齢者就業確保措置は努力義務であり、上記の①②を除いて対象者を限定する基準を設けることができます。ただし、対象者基準を設ける場合は以下の点に注意が必要です。

  ●対象者基準の内容は原則として労使に委ねられるが、事業主と過半数労働組合等との間で十分に協議した上で
   過半数労働組合等の同意を得ることが望ましい
  ●労使間で十分に協議の上で設けられた基準でも、事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や
   他の労働関係法令・公序良俗に反するものは認められない

創業支援等措置には計画の作成等が必要

創業支援等措置である④または⑤の措置を講じる場合、事前に計画を作成して過半数労働組合等の同意を得る必要があります。計画には所定の事項を記載しなければならず、同意を得た計画は常時当該事業場の見やすい場所に掲示するなどして、労働者に周知しなければいけません。

以下のサイトでは計画記載事項や計画を作成する際の留意点などが掲載されています。人事労務担当者が実際に計画を作成する際には、厚生労働省提供の資料を活用してください。

高年齢者雇用安定法の改正(厚生労働省)

再就職援助措置・多数離職届の対象者が追加

これまで再就職援助措置・多数離職届の対象となるのは、解雇その他の事業主の都合により離職する45歳以上65歳未満の者でした。今回の法改正を受けて対象者の範囲が以下のとおり拡大されています。

 現行の対象
 【対象①】解雇その他の事業主の都合により離職する45歳〜65歳までの者
 【対象②】平成24年改正の経過措置として、継続雇用制度の対象者について
      基準を設けることができ、当該基準に該当せずに離職する者

出典:厚生労働省

今後は、1ヶ月以内の期間に45歳以上70歳未満の者のうち5人以上を解雇等により離職させる場合、あらかじめ多数離職届をハローワークに提出する必要があります。

脱退一時金の支給上限年数が5年に引き上げ(4/1施行)

脱退一時金は保険料の納付済期間が短く公的年金の受給要件を満たさない場合に、一定の要件を満たすと受け取れる一時金です。日本国籍を有しない人が国民年金や厚生年金保険の被保険者資格を喪失して日本を出国した場合、2年以内であれば脱退一時金を請求できます。

従来は支給上限年数が3年でしたが、年金制度改正法が施行されて2021年4月からは上限が5年になりました。特定技能1号の創設により期限付きの在留期間の最長期間が5年になったことや、短期滞在の外国人の状況に変化が生じていることなどが法改正の主な理由です。

なお、基本的には外国人本人が受給手続きを行いますが、雇用している外国人が離職する際、必要であれば人事労務担当者から脱退一時金に関する案内をしたほうが良いでしょう。英語などいくつかの言語で記載された脱退一時金請求書が以下のサイトに掲載されているので、外国人労働者の出身国に応じて請求書を印刷して渡すようにしてください。
脱退一時金に関する手続きをおこなうとき(日本年金機構)

また、脱退一時金の支給額は保険料の納付済期間などによって異なり、金額の計算方法など制度の詳細は日本年金機構HPで確認できます。
脱退一時金の制度(日本年金機構)

人事労務の法改正に向けた早めの対応が大切

雇用にかかわる法律は時代の変化にあわせて随時改正が行われています。今回は2021年春の主要な法改正を紹介しましたが、今後もいくつかの法律で改正法が施行される予定です。

企業の経営者や人事労務担当者は法改正に関する最新情報を常に確認するようにしてください。就業規則の改定など法改正に伴う対応を早めに行うことが大切です。

健康管理システムの他社事例を紹介
健康管理システム導入の段階から、導入後の業務改善についてインタビュー。労務担当者の業務負担が改善された事例を3件ご紹介します。自社と照らし合わせてご活用ください。
詳細はこちら

健康管理の業務効率化を
検討されている企業様へ

  • 資料ダウンロード

    健康管理システムWELSAの特長や活用方法についてご紹介します。

    資料ダウンロード
  • お問い合わせ

    WELSAに関するご相談やご不明点はお気軽にお問い合わせください。

    お問い合わせ