安全衛生委員会とは?目的・設置基準と進め方をわかりやすく解説
安全衛生委員会は労働災害を防ぎ、労働者の健康や安全を守るために必要となります。1972年に制定された労働安全衛生法により、基準を満たす事業所は安全委員会と衛生委員会の設置が義務化されており、併せて安全衛生委員会として設置することが可能です。
この記事では設置義務の対象となる企業や、構成メンバーの役割、設置の際の注意点などを解説していきます。安全衛生委員会を運用するために必要なネタ選びのポイントや進め方についてもまとめました。
目次
安全衛生委員会は何をするの?目的とは?
安全衛生法委員会は、安全委員会と衛生委員会を統合した組織を指します。1972年6月に労働安全衛生法が公布され、設置が義務化されました。
安全委員会には労働者の危険を防止して安全を確保する役割、衛生委員会には衛生面に関わる取り組みを通して労働者の健康障害を防ぐ役割があり、定期的に委員会を開催し労働災害の原因や再発防止対策などを協議することで、事業場の改善に努める目的があります。
この2つの委員会はそれぞれ設置基準が定まっていますが、両方を設置しなければならない事業場では併せて安全衛生委員会として設置が可能です。
安全衛生委員会は両委員会の役割を担うため、事業場の安全確保から労働者の健康維持まで幅広く対策を考え、取り組みを行う必要があります。
安全衛生委員会の基本的なルール
次に、安全衛生委員会の設置義務化の対象となる企業や構成メンバーの基準、委員会で話す内容など基本的なルールについて解説していきます。
設置義務の対象となる企業
安全委員会と衛生委員会の両方を設置する義務がある事業場は、2つの委員会に代えて安全衛生委員会を設置することで設置義務を果たすことができます。まずは両委員会の設置基準について以下で確認しましょう。
【安全委員会または衛生委員会を設置しなければならない事業場】
・安全委員会
①常時使用する労働者が50人以上の事業場で、次の業種に該当するもの:林業、鉱業、建設業、製造業の一部の業種(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、 金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部の業種、(道路貨物運送業、 港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業
②常時使用する労働者が100人以上の事業場で、次の業種に該当するもの:製造業のうち①以外の業種、運送業のうち①以外の業種、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業・小売業、家具・建具・じゅう器等卸売業・小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業
・衛生委員会
常時使用する労働者が50人以上の事業場(全業種)引用:安全衛生委員会を設置しましょう|厚生労働省
上記から、安全委員会を設置しなければいけない事業場は、自ずと衛生委員会の設置義務もあることがわかります。一方で、事業場の従業員数が常時50~99人で、小売業や通信業などに該当する事業場では安全衛生委員会として設置する必要はありません。
また、事業場の従業員が常時50人未満の事業場では、委員会の設置が義務付けられていません。その代わり労働者の意見を聴く機会を設けて、安全や衛生に関する事項をヒアリングする必要があります。
構成メンバーとその役割
安全衛生委員会では、両委員会に必要な人材をそろえる必要があります。以下の表にまとめたので、確認してみてください。
【安全衛生委員会の構成メンバー】
安全委員会 | 衛生委員会 | 役割 | |
統括安全衛生管理者 | ○ | ○ | 事業場で委員会を統括管理する役割で、議長を担当。安全管理者と衛生管理者を指揮する。 |
安全管理者 | ○ | × | 事業場を巡視して危険のある箇所は対策を講じたり、従業員に正しい作業法を教育したりなど、安全に関する取り組みを行う。 |
衛生管理者 | × | ○ | 定期的に事業場を巡視し、衛生に懸念のある事項を改善したり、従業員の健康を管理したりなど、衛生・健康に関わる取り組みを行う。 |
産業医 | × | ○ | 健康診断や面接指導などを実施し、労働者の健康を管理する。労働者の健康障害が起きた場合は、その原因の調査も行う。 |
労働者 | ○※ただし、安全に関する業務の経験がある従業員 | ○※ただし、衛生に関する業務の経験がある従業員 | 現場の問題点を伝え、対策に関して労働者として意見を述べる。委員会で定めた取り組みや決定事項について現場に持ち帰って伝える。 |
上記の構成メンバーの人数に定めはなく、総括安全衛生管理者以外のメンバーは事業者が指名する必要があります。ただし労働組合がある場合はその半数を労働組合の推薦のもと指名しなければなりません。
調査・審議する内容
安全委員会と衛生委員会で、調査審議事項は異なります。まずは以下の画像で確認してください。
【安全委員会】
1 安全に関する規程の作成に関すること。
2 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、安全に係るものに関すること。
3 安全に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関するこ と。
4 安全教育の実施計画の作成に 関すること。 など引用:安全衛生委員会を設置しましょう|厚生労働省
【衛生委員会】
1 衛生に関する規程の作成に関すること。
引用:安全衛生委員会を設置しましょう|厚生労働省
2 衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること。
3 衛生教育の実施計画の作成に関すること。
4 定期健康診断等の結果に対す る対策の樹立に関すること。
5 長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること。
6 労働者の精神的健康の保持増 進を図るための対策の樹立に 関すること。 など
いずれも共通しているのは、労働者を守るための社内規程や、教育に関する実施計画の作成です。また、それぞれ安全や衛生に関する計画の策定や、実行後の評価について審議しなければなりません。
安全衛生委員会を設置する際の注意点
安全衛生委員会の設置に関するルールについて、注意しておきたいのは以下の3つです。
- 毎月1回以上開催すること
- 委員会における調査・審議した内容を労働者に周知すること
- 議事録を作成し、3年間保存すること
いずれも労働安全衛生法令で定められていますが、労働基準監督署の調査によると正しく運営されていないケースも散見されているといいます。そのひとつが安全衛生委員会の運営規程が作成されていない事例です。先ほど説明したとおり、両委員会の調査・審議内容のひとつに運営規程の作成があります。運営規定は厚生労働省のホームページから作成例をダウンロードできるので、資料を参考にしながら必ず作成してください。
また、労働時間外に委員会を開催した場合も注意しましょう。残業とみなされるため、構成メンバーに対し割増賃金を支払う必要があります。
安全衛生委員会の設置と進め方
次の安全衛生委員会の設置から、効果的に運用する方法まで、4つのステップに分けて解説していきます。
事業場全体で取り組むための事前準備
職場全体で安全と衛生に関する取り組みを進めるため、事業場のトップが率先して進めることが大事です。トップが安全衛生管理の重要性を理解し、自ら従業員へ伝えることで安全衛生に関する意識を高めることにつながります。
また、せっかく安全衛生委員会を設置しても、従業員同士のコミュニケーションが不十分だとうまく機能しない可能性があります。安全衛生委員会を効果的に運用するためにも、コミュニケーションしやすい雰囲気を作り、風通しの良い職場環境を整えることが重要です。
体制を整え、安全衛生委員会を開催
続いて安全衛生委員会のメンバーを決めます。先ほど解説した構成メンバーを集めて、体制を整えましょう。
委員会は基本的に月1回の頻度で開催します。ただし労働災害が発生した場合などは、早急に原因を突き止め、再発防止に努めなければならないので、臨時の委員会を開催することも必要です。
委員会では労働者の意見を広く集めましょう。パートタイマーや契約社員などから事前に意見をヒアリングしたり、実際に委員会に参加してもらったりしましょう。
活動を進めるための仕組み作り
活動を効果的に進めるためには、安全衛生のルール作りが重要です。運営規程はまず管理者がたたき台を作り、その後委員会で審議して内容を固めていきます。委員会の目的や、開催頻度を決めて、構成メンバー内で共通認識を持ちましょう。
また、事前に1年の活動計画を立てることも重要です。安全や衛生に関する教育や、事業場内の巡視などのスケジュールを決め、計画的に実行していきましょう。
実施と振り返り
安全衛生委員会を進めるうえで大切となるのは、スケジュールに合わせて取り組みを実施したら、必ず実績を振り返ることです。そのため都度進捗の確認や振り返りを行うタイミングを設けるようにしましょう。
計画の問題点や新たな課題が見つかった場合は見直しを行い、改善を計っています。PDCAサイクルを回しながら、活動を進めていくことが大事です。
安全衛生委員会のネタ選びのポイント
最後に安全衛生委員会のテーマを決めるポイントをまとめます。毎月1回の開催が必要となる安全衛生委員会ですが、「テーマにするネタがない…」とお悩みの管理者も多いようです。
まずは以下のように季節ごとのネタや、健康診断とストレスチェックの結果などから連想するとよいでしょう。
【安全衛生委員会のネタ一覧】
ネタ例 | |
健康診断の結果から | ・二次検査が必要な従業員への対処法・体調不良の職員に対して作業量や職場環境の見直し・健康診断の受診率100%を目指すには・運動習慣やイベントなど社員の健康作りを支援 |
時節柄から | ・インフルエンザやノロウイルスなどの感染症対策・予防接種の費用の補助・夏の熱中症対策・忘年会や新年会の場でのマナーや、お酒の飲み方 |
直近の事例から | ・新型コロナウイルスの感染症対策・年次有給休暇の取得や上限時間規制など、法改正があった制度について・災害発生不時に備えた防災意識を高める取り組みなど・ストレスチェックの結果など社内の取り組みに関すること |
職場の人間関係から | ・コミュニケーションを活性化させる方法・社員のメンタル不調に気づくための対策・ハラスメント対策 |
そのほかマンネリ化しないよう、当番制にしたり、社内公募にしたりしてネタを集める方法も効果的です。
安全衛生委員会の活用には従業員の健康情報が必須
安全衛生委員会は条件を満たした事業場では必ず設置が必要となります。従業員の安全や健康を守るために欠かせない委員会で、効果的に活用していくには1年の計画を立てたり、運用のルールを決めたりなど事前の準備が大事です。
委員会での調査・審議をより充実したものにするには、従業員の就労データや健康診断結果、ストレスチェックデータなどの情報も欠かせません。健康管理システム「WELSA」なら安全衛生委員会に必要な情報を一元管理できるので、より効率よく安全衛生委員会を運用したい方はチェックしてください。