衛生管理者の必要人数は?選任の条件から資格の種類、届け出の提出方法まで解説
従業員50人以上の事業場では、選任が必要となる衛生管理者。衛生管理者の選任を怠ると、罰則が科される場合があるので十分注意しなければなりません。
この記事では事業場ごとに必要な衛生管理者の人数や資格について徹底的に解説しています。衛生管理者選任報告の際に必要となる選任届の提出方法や、衛生管理者が不在の場合の対処法も紹介します。
目次
衛生管理者とは?基本情報を解説
衛生管理者とは、従業員の健康と安全を衛生面で守るために配置される、事業場の管理者です。一定の従業員がいる事業場では、衛生管理者の選任が義務付けられています。ここでは衛生管理者の選任義務やその役割、業務内容、資格など基本情報について解説していきます。
衛生管理者の選任の条件と人数
衛生管理者は、労働者が50人以上いる事業場では必ず1人以上選任しなければなりません。上記の労働者には正社員だけでなく、派遣社員やアルバイト、契約社員なども含まれます。事業場ごとに選任義務が生じますので、同一企業であっても支店や店舗ごとに必要な人数を配置します。
衛生管理者の必要人数は、事業場の労働者数によって異なるので注意しましょう。労働者が増加するごとに、選任すべき人数も増えます。詳しくは記事の中盤で解説していますので、そちらもチェックしてください。
また、業種によって必要な資格が異なり、特に法定有害業務では専門知識を有した衛生工学衛生管理者を配置する必要があります。法定有害業務として指定されているのは、以下の10項目の業務です。
多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
異常気圧下における業務
削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
重量物の取扱い等重激なる業務
ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二酸化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務
引用:衛生管理者について教えて下さい。|厚生労働省
衛生管理者の役割と業務
衛生管理者の主な役割として、以下の4つが定められています。
労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
健康診断の実施その他の健康の保持増進のための措置に関すること。
労働災害防止の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
引用:衛生管理者について教えて下さい。|厚生労働省
衛生管理者は上記のうち、衛生に関して技術的な管理を行います。具体的な業務内容を以下に箇条書きでまとめました。
- 月1回の作業場チェック
- 体調不良の従業員やメンタル不調者の発見と処置
- 従業員の健康相談
- 健康診断の日程調整
- 従業員への衛生教育
- 救急用具などのチェックや整備
- 衛生日誌に記録をつける
- ケガや病気、欠勤などに関する統計の作成
- 設備、作業方法などに衛生面で問題がある場合は必要な措置を講じる
とりわけ大事な業務は、「月1回の作業場チェック」と「設備、作業方法などに問題がある場合は必要な措置を講じる」の2つです。これらは労働災害や従業員の体調不良などを未然に防ぐために重要となります。
また、健康異常者を早期発見するために、健康診断の受診率を高める取り組みも必要です。業務を調整して健康診断に行く時間を作ってあげたり、受診を促すよう声をかけたりなど工夫しましょう。
従業員が不調を抱えたままでは、生産性も低下してしまいます。もし体調が悪化した場合、人材不足の問題にもつながるでしょう。衛生管理者は、企業の健康経営を支える重要な役割も担っているのです。
衛生管理者に必要な資格
衛生管理者になるために必要な資格は、主に以下の3種類です。
業務 | 第一種衛生管理者免許 | 第二種衛生管理者免許 | 衛生工学衛生管理者免許 |
農林畜水産業や製造業など(農林畜水産業/鉱業/建設業/製造業※/電気業/ガス業/水道業/熱供給業/運送業/自動車整備業/機械修理業/医療および清掃業)※物の加工業を含む | ○ | × | ○ |
上記以外の業務 | ○ | ○ | ○ |
法定有害業務 | ○※衛生工学衛生管理者も同時に選任する場合は可能 | × | ○ |
上記のようにより高度な管理が必要となる業務に関しては、第二種衛生管理者は選任できません。さらに法定有害業務に関しては、第一種衛生管理者のみの選任は不可となります。必ず衛生工学衛生管理者を同時に配置しましょう。
また、いずれの業務においても、そのほか医師や歯科医師、労働衛生コンサルタントなどを衛生管理者として選任することが可能です。
事業者規模ごとに必要となる衛生管理者の人数
事業場で働く労働者が多くなるにつれ、衛生管理者の選任数は増えます。衛生管理者を配置しなかった場合、労働安全衛生法120条に基づき50万円以下の罰金が科せられる場合があるので注意しましょう。選任が必要な人数は以下の表にまとめました。
事業場の規模(常時使用する労働者数) | 衛生管理者の数 |
50人以上200人以下 | 1人 |
200人を超え500人以下 | 2人 |
500人を超え1,000人以下 | 3人 |
1,000人を超え2,000人以下 | 4人 |
2,000人を超え3,000人以下 | 5人 |
3,000人を超える場合 | 6人 |
基本的にその事業場専属の衛生管理者を選任する必要があります。ただし2人以上の選任が必要な事業場で、労働衛生コンサルタントを配置している場合は、うち1人は専属でなくてもよいとされています。つまり3人の衛生管理者が必要な場合、事業場専属でない労働衛生コンサルタント1名、専属の衛生管理者2名の構成でも違反になりません。
また、従業員が50人に満たない事業所では、代わりに安全衛生推進者を選任し、衛生と安全に関して労働者から意見を聞く場を設ける必要があります。
衛生管理者が不在の場合の対応
衛生管理者は一定数の従業員がいる事業場では必ず選任が必要ですが、突然の退職や死亡など、やむを得ないケースで不在になる場合もあります。続いて、衛生管理者を選任できない場合の対応について紹介します。
都道府県労働局長へ申請
衛生管理者が退職やケガ、死亡などで急遽不在となり選任義務が発生した場合、14日以内に新たな衛生管理者を配置し、その旨を労働基準監督署長に申告する必要があります。
欠員の補充に時間がかかる場合は、所轄の労働局長に許可を得ることで選任義務の一時的な免除が可能です。ので、
ただし免除される期間は1年間のみです。その猶予期間中に次の衛生管理者を定める必要があります。事業場内に衛生管理者の資格を有する者がいない場合は、従業員に衛生管理者試験などを受けさせたり、採用を進めたりなど、早急に人材を確保しましょう。
また、新しい衛生管理者を選任するまでは、代理者を立てなければなりません。その条件について、次に解説します。
代理人の選定
猶予期間中には、代理人を衛生管理の業務に従事させなければなりません。衛生管理者の資格を持っていることが望ましいですが、この場合は資格を持っていない従業員でも担当できます。
ただし、もともと衛生委員会のメンバーだったり、衛生管理者を補佐していたりなど、一定の条件を満たした従業員を配置する必要があります。代理人を選定した際に、労働基準監督署長への報告義務はありません。
1年間の猶予期間がありますが、企業は早めに衛生管理者を選任するよう心掛けましょう。衛生管理者が不在の場合、事業場内の労務リスクが高まるためです。従業員の健康を守るためにも、なるべく欠員が出ないよう調整するようにしてください。
衛生管理者の資格を取得するには?
衛生管理者の資格のうち、第一種衛生管理者免許と第二種衛生管理者免許は、安全衛生技術試験協会が主催する試験に合格することで取得できます。第二種の免許を持っていなくとも、第一種の試験を受けることが可能です。
試験は全国にある7つのセンターで、月1~3回ほど開催されています。関東センターや中部センター、近畿センターでは、比較的多く開催されているので、公式ホームページをチェックしましょう。
受験資格があるのは、以下のいずれかに該当する方です。
- 大学、短期大学、高等専門学校を卒業後、1年以上労働衛生の実務経験がある
- 高等学校または中等教育学校を卒業後、3年以上労働衛生の実務経験がある
- 10年以上労働衛生の実務経験がある
令和3年度の調査によると、合格率は第一種衛生管理者免許で42.7%、第二種衛生管理者免許で49.7%です。第一種衛生管理者のほうがより高度な資格になるので、合格率が若干低い傾向にあります。
衛生管理者選任届の提出方法
事業場の従業員の数が常時50人に達したら、衛生管理者を選任し、14日以内に選任届を出しましょう。選任届は「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式」を使用します。
「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」というサイトを利用すれば、オンライン上で届け出を作成することができます。未入力や誤入力があった場合、エラーメッセージで知らせてくれるので非常に便利です。登録せずに利用できるのでぜひ活用してみてください。
ただしオンラインで申請はできません。必ず出力して所轄の労働基準監督署へ提出しましょう。控えも含めた届け出2部以外に、資格を証明する書類を一緒に添付します。
衛生管理者の必要人数を理解して漏れなく配置しよう
衛生管理者は従業員が50人以上いる事業場で設置の義務があります。労働基準監督署への報告なしに選任を怠ると、労働安全衛生法違反で罰則が科される場合があるので、十分注意しましょう。衛生管理者が突然不在になった場合に備えて、常に事業場内に衛生管理者の資格を持った従業員を確保しておくことも重要です。
また、事業場の人数によって衛生管理者の選任数は変わります。法違反を防ぐためにも、ルールをよく理解して正しく衛生管理者を配置するようにしてください。