労働安全衛生法による健康診断の実施義務とは?項目や費用を解説
会社が労働者に対して健康診断を実施することは、法的な義務です。実施しなければ法律違反となり、罰則を受けることもあります。そのようなリスクを軽減するには、正確な知識が必要不可欠です。 ここでは、会社が押さえておくべき健康診断の義務や費用負担などについて解説します。
目次
労働安全衛生法による健康診断の実施義務とは?
健康診断の実施義務の詳細について説明します。
労働者に医師の健康診断を実施する
労働安全衛生法では、会社に対して、労働者に医師の健康診断を実施しなければならないと規定しています。事業規模を問わず、労働者に健康診断を受診させるのは会社の義務です。毎年1回、必ず実施しなければなりません。
さらに、常時50人以上使用する事業所の場合は、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務があります。また、その結果を5年間保管しておくことも会社の義務です。
ただ定期的に健康診断を行うだけでなく、結果を報告して、情報を管理するのも会社に義務付けられています。健康診断に関する情報は重要な個人情報なので、慎重に取り扱いながら、外部に漏れないように努めましょう。
健康診断の実施義務に違反すると罰金に処せられる
労働安全衛生法によって健康診断の実施が義務付けられているにも関わらず、会社がそれに従わなかった場合は法律違反となり、50万円以下の罰金に処せられます。
健康診断の実施や本人への結果の通知については、事業場の規模を問わず、すべての会社に課された義務です。罰則を受けないためにも、法律に従い適切に実施しましょう。
労働安全衛生法による健康診断の対象者とは?
労働安全衛生法は事業主に対して、常時使用する労働者に医師による健康診断を行うことを義務づけています。業種や職種などは関係ありません。労働形態に関係なく、常時使用する労働者に健康診断を実施する義務があります。
正社員
正社員は常時使用する労働者に該当するため、全員が健康診断の実施対象者となります。年齢による例外などはありません。
パート・アルバイト
パートタイマーやアルバイトであっても、週の労働時間が正社員の3/4以上で、1年以上継続して雇用する場合は、健康診断の対象となります。
契約社員
契約社員であっても1年以上雇用することが見込まれる人、および更新により1年以上雇用されている人で、所定労働時間の3/4以上労働している場合は対象となり、正社員と同じ内容の健康診断を受診させる必要があります。
役員
役員が対象になるかどうかは、労働者性の有無によって判断します。取締役や監査役は労働者性がないため、健康診断の実施対象外です。一方で、部長や支店長などを兼務している役員や執行役員などは、労働者性があるとみなされ、健康診断の実施対象者となります。
労働安全衛生法による健康診断の種類と項目
会社に実施が義務付けられている健康診断には、定期的に行う一般健康診断と、有害業務に従事する労働者に対する特殊健康診断、じん肺健康診断、歯科検診があります。
一般健康診断
一般健康診断の対象となるのは、会社が常時使用する労働者全員です。事業者に義務付けられている一般健康診断には、以下5種類あります。
- 雇入時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 海外派遣労働者の健康診断
- 給食従業員の検便
このうち人事が知っておくべきは、労働者の雇い入れ時に行う「雇用時の健康診断」と年1回定期的に行う「定期健康診断」、6月以内ごとに1回定期的に行う「特定業務従事者の健康診断」の3種類です。「特定業務従事者の健康診断」の対象となるのは、深夜の業務や危険な業務に携わる人です。
労働安全衛生規則第43条では、「雇用時の健康診断」の診断項目について以下のように定めています。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 血色素量及び赤血球数の検査(貧血検査)
- GOT、GPT、γ-GTP検査(肝機能検査)
- LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライドの量の検査(血中脂質検査)
- 血糖検査
- 尿中の糖及び蛋たん白の有無の検査(尿検査)
- 心電図検査
「定期健康診断」の診断項目は、労働安全衛生規則第44条で定められています。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査 ・身長、体重、視力および聴力の検査
- 胸部X線検査
- 血圧の測定
- 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
- 貧血検査(赤血球数、血色素量)
- 肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP)
- 血中脂質検査(総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)
- 血糖検査
- 心電図検査
一般健康診断の診断項目は上記13項目ですが、3ヶ月以内に健康診断を受けていた場合には、診断項目を省略できます。
特殊健康診断
特殊健康診断とは、契約形態や労働時間に関わらず、有害業務に常時従事する労働者を対象に実施が義務付けられている健康診断です。6月以内ごとに1回、雇入時、配置換え時に実施する必要があります。
特殊健康診断の対象者は、以下に該当する労働者です。
- 有機溶剤業務
- 鉛業務
- 四アルキル鉛等業務
- 特定化学物質業務
- 高気圧業務
- 放射線業務
- 除染等業務
- 石綿業務
特殊健康診断の診断項目は、従事する業務内容によって異なります。
じん肺健康診断
常時粉じん作業に従事する労働者には、じん肺健康診断を受診させる義務があります。診断の結果により、じん肺管理区分が決定されます。
実施時期は雇入時と、その後の定期健診でじん肺の所見がない場合は3年に1回、じん肺の所見がある場合は1年に1回の頻度で実施します。
- エックス線写真による検査
- 胸部に関する臨床検査
- 肺機能検査
- 動脈血ガスを分析する検査
歯科医師による健康診断
有害な物のガスや粉じんを発散する場所での業務、有害な作業環境下で業務にあたる労働者や、歯またはその支持組織に塩酸や黄りんなどが付着する可能性がある労働者には、歯科医師による健康診断を受診させる義務があります。
労働安全衛生法による健康診断の費用負担と受診時間
労働安全衛生法では会社の健康診断の費用負担についても定めています。受診時間や、受診している間の給与の支払いなどは大事なポイントなので、しっかり確認しておきましょう。
健康診断の費用は会社で負担
健康診断の実施は会社の義務なので、費用は会社負担しなければなりません。受診する医療機関と診断項目によって料金は異なりますが、8,000円~10,000円程度が相場です。
健康診断の受診時間
健康診断を実施するのは、勤務時間中が基本です。多くの会社では、勤務時間中に受診できるように、健康診断の受診日程が設定されます。
会社内で実施する場合だけでなく、医療機関に労働者が出向いて受診する場合も同様に、勤務時間中に実施するのが基本です。
ただし、一般健康診断は業務との関連性がないため、会社が給与を支払う義務はありません。とはいえ、給与を支払ったほうが、労働者にスムーズに受診してもらえるでしょう。
労働安全衛生法による健康診断を労働者が拒否した場合は?
会社には健康診断を実施する義務があるとはいえ、「仕事が忙しい」「病院が苦手」などの理由で受診を拒否することも少なくありません。この場合の対処法を間違えると、会社が損害賠償請求を請求される可能性もあるので注意が必要です。
トラブルを未然に防止するためにも、労働者に対する正しい対処法をきちんと把握しておきましょう。
懲戒処分の対象にできる
労働安全衛生法は会社に健康診断を実施する義務を課すと同時に、労働者に対しても受診する義務を課しています。しかし、会社と違い、義務を違反した労働者に対する罰則はありません。
法律上の罰則はありませんが、会社は就業規則に基づいて懲戒処分を行うことができます。ただし、懲戒処分をすることは、労働者だけでなく、会社にとっても大きなダメージです。このような事態を防ぐためにも、就業規則に健康診断の受診義務を明確に記載し、労働者にとって大切であることをしっかりと認識してもらいましょう。
会社が放置すると損害賠償請求の可能性も
労働者に受診を拒否されたときに、そのまま放っておくのは良くありません。健康診断の受診は労働者の健康管理に欠かせないものです。あとになって労災事故が発生した場合に、定期健康診断を受けさせていなかったとして送検される可能性があります。
また、受診を拒否した労働者の健康に異常が生じた場合は、安全配慮義務を怠ったとして損害賠償を請求される可能性があります。
労働安全衛生法による健康診断は会社の義務
会社が健康診断を行うことは労働安全衛生法によって義務付けられています。法律違反した場合の罰則も定められているため、必ず守らなければなりません。
毎年定期的に健康診断を行うためにも、労働者に健康診断の重要性を理解してもらい、スムーズな実施を心がけましょう。