ハイリスクアプローチとは?具体的な実施手順と事例を紹介
ハイリスクアプローチは、従業員の心身の健康状態を保つ職場づくりを行ううえで欠かせません。しかし、正しく実施できない場合その効果を発揮できないというデメリットもあり、適正な理解と実施が求められます。
今回の記事では「ハイリスクアプローチ」の定義や効果、実施手順、他社の事例を解説します。ハイリスクアプローチへの理解を深めて、従業員の健康管理を効果的に実施しましょう。
ハイリスクアプローチとは
ハイリスクアプローチとは、疾患を発症しやすい高リスクの個人を対象に行動変容を促すようアプローチする方法で、二次予防の役割を果たします。ハイリスクアプローチは疾病のリスク要因を持つ人への個別アプローチが中心にはなりますが、対個人の保健指導だけではなく、対集団の高リスクグループへの集団健康教育や、対環境の特定保健指導体制整備といった基盤整備なども含まれています。
リスクのある人を対象に働きかけるハイリスクアプローチとは違い、リスク要因の有無で対応を分けず、集団全体へ働きかけて全体的にリスクを下げることを目的とするアプローチをポピュレーションアプローチと呼びます。ポピュレーションアプローチが果たす役割は、一次予防です。
ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチは両方を組み合わせることで相乗的に作用するため、それぞれのメリット・デメリットを理解して組み合わせることが必要です。
参考:(保健計画総合研究所「ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチに関する論攷」)
ハイリスクアプローチが有効なケース
アプローチの段階には、発症前の予防的な介入と治療・リハビリ的な介入の2つがあります。その中でも、発症前の予防段階でリスク要因を持つ人たちにアプローチすること(=ハイリスクアプローチ)は、疾病の発症・重症化を防ぐために欠かせません。
ただし長期的に時間を追っていくと、生活習慣病などの疾病は一時的に選別された高リスク者の発症数よりも、何もない人たちから発症する数のほうが多いとされており、リスク要因を持つ可能性がある人たちの数そのものを減らすことも重要とされています。
このようにアプローチにはさまざまな段階がありますが、ハイリスクアプローチが有効なケースは、リスク要因を持つ集団を全体から分別することが容易な場合に限ります。集団全体にリスクが広く分布しているケースでは、ハイリスクアプローチは有効に機能しないため要注意です。
例として、ある企業で脳卒中対策を実施する場合を考えてみましょう。脳卒中の原因の一つに、塩分の取りすぎによる高血圧が挙げられます。塩分摂取量が多い従業員は、そうでない従業員に比べて脳卒中の発症率が高くなることが予測されます。企業で脳卒中対策として塩分摂取量を減らす取り組みを行う場合、ハイリスクアプローチによって塩分摂取量が高い従業員だけを選び出して個別指導を行うよりも、ポピュレーションアプローチによって従業員全員に働きかけて平均塩分摂取量を下げるほうがはるかに効率的かつ効果的なのです。
そのため、ハイリスクアプローチを効果的に実施するにはポピュレーションアプローチが必要不可欠であるとともに、対象となる健康問題や集団の規模によってハイリスクアプローチが有効であるかどうかを検討することが非常に重要といえるでしょう。
ハイリスクアプローチの手順
次はハイリスクアプローチの実施手順について解説します。ハイリスクアプロ―チを効果的に実施していくには、適切な手順を理解することが重要です。
①健康課題の抽出
ハイリスクアプローチを実施するために、まずは健康課題の抽出を行いましょう。ストレスチェックや健康診断の結果、職場の環境状況をもとに、自社の健康課題を把握します。健康課題としてアプローチの対象とする評価基準と疾患には、以下のようなものが挙げられます。
評価基準 | 発症リスクのある疾患 |
健康診断の結果、血圧が高い | 脳卒中・脳梗塞 |
健康診断の結果、血糖値が高い | 糖尿病 |
健康診断の結果、BMI値が高い | メタボリックシンドローム |
ストレスチェックの結果、高ストレス判定 | 精神障害 |
喫煙者 | 脳疾患・心臓疾患・がん |
長時間労働者 | 脳疾患・心臓疾患・精神障害 |
②高リスク対象者の抽出
自社で取り組む健康課題の抽出を終えたら、その健康課題の対象となる高リスク者の抽出を行っていきます。スムーズに高リスク者の抽出を行うには、ストレスチェックや健康診断結果をデータ化して、従業員の健康状態を「見える化」しておくことが重要です。
③対策方針の検討とハイリスクアプローチの対策の決定
健康課題の取り組みに向けて、どのような対策を実施していくかの検討段階に入ります。効果的に取り組むには、ハイリスクアプローチだけでなくポピュレーションアプローチも同時に実施することが大切です。そのため、この段階でポピュレーションアプローチの施策も一緒に検討していきましょう。
ポピュレーションアプローチは、食生活改善の働きかけ、運動プログラムを組み込んだ福利厚生の整備など、対集団的・対環境的な施策を検討します。全社的に取り組むことで、健康課題そのものに対する全体の意識付けを容易にし、従業員の健康保持・リスク発症数の減少につながります。
一方、ハイリスクアプローチでは特定保健指導、高リスク者向けの集団健康教育、通院勧奨など、抽出した高リスク者を対象とした施策を検討していきます。対象を絞って施策を実施することで、高リスク者の発症予防・発症率の抑制が実現可能となります。ここで検討した施策の中から実施するものを決定し、ハイリスクアプローチを行っていきましょう。
ハイリスクアプローチの実践例
他社が実践しているハイリスクアプローチを参考にして自社の対策方針に取り組むことは、効果的なハイリスクアプローチ実現のポイントといえます。実際に行われているハイリスクアプローチの実践例を見ていきましょう。
住友ゴム工業株式会社
タイヤ事業やスポーツ事業をグローバルに展開している住友ゴム工業株式会社では、健康診断後の事後措置の判定基準を明確化しています。二次検査の受診を徹底するため、4割を超える有所見者に対して粘り強い受診勧奨を行いました。また、Web動画配信による健康教育や、在宅勤務を行う有所見者にはオンラインによる産業保健職面談や保健指導も併せて実施したことにより、保健指導実施率は過去最高の99%、二次検査受診率も89%に改善し、ハイリスクアプローチによる高い効果を得られています。
参考:(経済産業省「2022健康経営銘柄 選出企業紹介レポート」)
株式会社DTS
独立系のシステムインテグレーターである株式会社DTSでは、「ハイリスク者の削減」を健康経営の目標の一つに掲げて対策強化を図っています。同社では定期健診後の二次健康診断の受診率が健保組合平均よりも低い状態が続いたため、独自のハイリスク者基準に加えてハイリスク予備軍の基準を新たに導入して、健康診断結果の入力によりハイリスク判定ができるツールを開発しました。
2020年度のハイリスク判定ツールの実施率は71.6%であり、ハイリスク者と判定された従業員全員に対してフォローを行いました。さらに対象者への指導の結果、精密検査受診率・特定保健指導実施率の改善とともに、保健指導や健康情報の発信を行ったことで睡眠時間・運動習慣化率・喫煙率も改善しています。
参考:(経済産業省「2022健康経営銘柄 選出企業紹介レポート」)
ハイリスクアプローチの効率化には健康管理システムがおすすめ
対象を限定するハイリスクアプローチは、対象を限定しないポピュレーションアプローチと組み合わせて実施するとより大きな効果を得られます。そのため、実施の際にはポピュレーションアプローチも考慮した施策を検討していくと良いでしょう。
一方で、ハイリスクアプローチを実施するにあたり、高リスク者の抽出や産業医・保健師との連携、面接実施の記録など負担が大きい業務も少なからずあります。これらの業務を効率化するには、健康管理システム「WELSA」の活用がおすすめです。
「WELSA」では、ストレスチェックや健康診断の結果だけでなく例えば、「血糖値が高い人」「BMIが25以上の人」といった要注意者を自動的に抽出することができたり、といった高リスク者抽出や、高リスク者への指導内容等もデータ化が可能です。そのため、健康状態の「見える化」を実現するとともに産業医などとの連携も容易になり、効率的に従業員の健康管理を実施することができます。効果的・効率的なハイリスクアプローチを実施するためにも、ぜひ「WELSA」の導入をご検討ください。